自民党が両院議員総会の開催をめぐり大揺れしている。衆院の解散・総選挙を直前にして、両院総会を開く、開かないで党全体が右往左往する姿は、有権者の目にどう映るだろうか。あきれ果てている人が多いのではないか。
両院総会は党の正式な議決機関である。開催を求める署名を集めた中川秀直元幹事長らは、総裁選前倒しを議決して麻生太郎首相に辞任を促すシナリオを描いているとされる。
紆余(うよ)曲折を経て、党執行部は両院議員が出席する「懇談会」を21日の解散直前に開くことを決めた。正式な議決機関ではない。麻生降ろしにつながりかねない両院総会ではなく、懇談会で“ガス抜き”を図ろうという筋書きだろう。
だが、党則に基づく署名に関するさまざまな動きは、すっきりしなかった。あいまいさは否めない。懇談会でお茶を濁せば、党運営の透明性も問われよう。政権党として情けないとしか言いようがない。
署名した議員にも動機はいろいろあったようだ。麻生降ろし派もいれば、一連の地方選挙敗北にけじめをつけた上で、結束を図る場にしようと望む人もいた。各人の思惑は別にして、特にあれだけの惨敗を喫した東京都議選について、総括を求める声が上がるのは当然だろう。
党内が混乱する中で、麻生首相は「両院議員総会とか、いろんな形があると思うが、そういう場が設定されるならば出席して話を聞き、所信や考え方を述べたい。話を聞く気がないとか、逃げるつもりはまったくない」と強調した。
党のリーダーとして指導力が感じられない。本来なら都議選大敗を受けて、要求される前に自ら両院総会を開き、考えをしっかり訴えて衆院選への協力を取り付けるべきだろう。足元の党内で信任が大きく揺らいでいるのに、総選挙で国民に信を問えるのだろうか。
麻生降ろしをもくろむ中川氏らの行動にも首をかしげる。支持率が低迷する麻生首相で衆院選は戦えない、とする思いは分からないではない。
しかし、野党が提出したとはいえ、内閣不信任決議案に反対した。つまり形として現内閣を信任したわけである。麻生降ろしの動きに有権者の理解は得られまい。
あくまで麻生首相では選挙を戦えないというのなら、離党すべきだろう。独自に政権公約(マニフェスト)を掲げ、国民に訴えるのが筋ではないか。
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の土地や建物などを詐取したとして元公安調査庁長官の弁護士緒方重威被告らが詐欺罪に問われた事件で、東京地裁は緒方被告に懲役2年10月、執行猶予5年(求刑懲役5年)の有罪判決を言い渡した。
広島高検検事長なども務めた大物検察OBが刑事責任を問われ、有罪判決を受けるのは極めて異例である。緒方被告は控訴の方針だが、事件の重大性を十分認識すべきだろう。
判決によると、緒方被告は整理回収機構による差し押さえを避けようと総連側が中央本部の売却先を探していたことに乗じて土地・建物や現金を詐取しようと、元不動産会社社長らと共謀。2007年、購入資金がないのに投資家が資金を出すよう装い、虚偽の説明をして中央本部の所有権を移転登記させて土地・建物を詐取したほか、「調達に必要」と現金4億8400万円をだまし取った。
公判では、緒方被告らに朝鮮総連をだます意図があったかどうかが争点となり、緒方被告は無罪を主張して古巣の検察と全面対決する構図となった。
判決は「総連側が強制競売を回避したいと切望しているのにつけ込んだ卑劣な犯行」と指摘。「いずれの犯行も元長官などの肩書を持つ緒方被告の関与なくして完遂できなかったのは明らか」とした上で「法曹の信頼を大きく裏切り、自らの利益を追求した点で厳しい非難を免れない」と断罪した。
検察OBとしての自覚と責任に欠ける行動だったと言わざるを得まい。検事から弁護士に転身する「ヤメ検」には、権威が悪用される危険が常につきまとうことを心すべきである。今回の判決は、法曹関係者に自重を促すようあらためて警鐘を鳴らしたともいえよう。
(2009年7月18日掲載)