キーン
コーン
カーン
コーン…
学校のチャイムが鳴り終わると同時に、リーバー先生が教室のドアを開ける。
ぽすん…
と、お約束通りにドアに仕掛けられていた黒板消しが、先生の頭上に落下した。
「…こ~ら~、お前たち」
クラスのみんなは笑いながら、先生に向かって「先生ってば、これで何回目~?」「引っ掛かり過ぎっ///」「たまには避けなよ~」などと、好き好きにひやかしを続ける。
「こほんっ。ぇ~と、先生をひやかすのは止めるように。今日はみんなに嬉しいお知らせがあります」
咳払いをして、頭と肩に掛かったチョークの粉を払い落としながら、教壇の上に立つ。
「みんなに一つニュースがある。このクラスに、今日から転校生がきます」
クラスの男子が、そのニュースを聞いて先生に質問する。
「先生、その転校生って美人?」
「んっ?あぁ、東洋よりのキレイな顔はしてたな」
「マジでっ///」
先生の話しを聞いて、はしゃく男子生徒たち。
女子生徒の反応はイマイチのようだ。
「編入試験の成績はとても優秀だったらしい。みんな誤解してるみたいだから言っておくが、転校生は男子生徒だぞ?」
「…えぇ~」
残念そうな男子生徒。
「やったっ☆」
嬉しそうな女子生徒。
反応は様々だ。
「よし、神田入ってこいっ」
神田…?その聞き覚えのある名字に、胸がざわめく…
まさか…ね…。
先生がドアに向かって声を掛ける。
―ガラッ
とドアが動いた。
足が一歩踏み込まれ、彼の姿が現れる。
その横顔に、僕は息を飲んだ…。
背筋が凍るような、全身が悪寒に包まれた。
長身に、切れ長でするどい漆黒の瞳。真っ黒で艶めく、長い黒髪を高い位置で一つに束ねて。
クラス中の生徒たちが同じ感想を持ったであろう…
何て、美しい人だろうと…。
「みんな、今日からこのクラスで一緒に勉強していくことになった、神田ユウだ。仲良くしてやってくれよ」
『はぁ~いっ♪』
薔薇色の声が、クラス中に響き渡った。
「みんな、良い反応だな。先生は嬉しいぞっ。神田の席はどうするかな…おぃ、アレンっ!」
「はぃっ////」
先生に呼ばれて、僕は慌てて返事をする。
「クラス委員長のお前が、責任持って世話してやってくれ。神田の席は、アレンの隣りにしよう。ラビ、アレンの隣りを移動して神田に代われ。お前は、今日から教壇の前に移動だからなっ!」
「ちょ…ちょっと待つさぁ~ι何で俺が、アレンの隣りから移動しなきゃならないんさ?」
隣り席だったラビが、先生に不服を言う。
「お前はいつも授業中にうるさくするだろ、他の先生たちから苦情がきてんだよ。たまには一番前の席にきて、勉強に集中しろっ!わかったな?」
「ぅ…。わかったさ…」
ラビはしょぼんとしながら、席を移動する準備を始める。
クラスの生徒が明るく笑いながら、ラビをひやかす。
「だあぁ、笑うなお前らっ////楽しがってるだろッ///」
ラビはクラスの人気者。
「じゃあな、アレン…。俺はお前との愛を確かめあった日々を忘れないさ…」
ラビは僕の片手を取ってホストのように片膝立ちをすると、僕の手の甲に『ちゅっ』と唇を落とした。
「なっ///何するんですかぁ~」
僕は真っ赤な顔をしてラビの手を振り払う。
「つれないなぁ~。でも、そんなアレンも大好きさぁ~」
と、クラス中に「ばぁ~か」「ホモがいる~」と笑われながら、ラビは荷物を持って教壇前の席に移動していった。
「バカ。アレンを困らすな…。これからは先生と仲良くしような?みっちり扱いてやるからな…」
先生は教壇前の席に着いたラビを、ニヤニヤしながら見下ろす。
「何を?」
ラビは笑顔で誤魔化す。
「勉強に決まってんだろうがっ!!!」
「ひええぇ~(泣)」
先生とラビのコントにクラスが沸く中、先生が気付いたように言う。
「すまんな、神田。こんなバカばっかりのクラスだが、仲良くしてやってくれな」
先生は、先程から立ちつくしていた神田に話し掛ける。
「はい。みなさん、明るくて良いクラスですね」
神田の微笑に、クラス中の女子が『きゃあぁっ』と黄色い声を上げた。
「じゃあ、神田。授業を始めるから、アレンの隣りの席に着いてくれ。わからないことがあったら、何でもアレンに聞けよ」
「はい。ありがとうございます」
神田が、僕の隣り席に近付いてくる。
あぁ、どうしよぅ…。
会わす顔がないよ…。
―カタッ
「よろしく、アレン」
気付けば神田は席に着いて、僕に話し掛け手を差し伸べてきた。
「ぁ…、よろしくね。神田君…」
曖昧に笑顔を無理やり作って、握手を返す。
「痛っ…」
不意に、力強く握り締められて顔が引きつる。
「…っ////」
びっくりして神田を見れば、声は出さずに口角だけを動かして…僕にメッセージを伝えてきた。
《やっと会えたな》
時間が止まったように、僕は動けなくなる。
幼い日の思い出したくない過去が、鮮明にフラッシュバックした。
*-*-*-*-*
『ユ、ウ…嫌ぁっ///』
幼い僕の体はユウに花開かれて、味わったことのない熱を帯びている。
僕は、当時思春期を迎えたばかりの小学生で。
神田ユウ…。ユウは、僕の近所に住んでいる幼馴染みだった。
いつも一緒に遊んで、小学校のクラスの中でも一番の友達…親友だったと思う。
僕は、そう思ってたのに…
ユウは裏切った…。
あの日の出来ごとは、鮮明に脳裏に焼き付いている…。
ユウが親の仕事の都合上、転校することを伝えられたのは、ユウが転校してしまう1週間前。
僕はショックで、ユウと顔を会わせても今までみたいには話せなくなっていて。
別れを認めたくなくて…あの日までは、ユウを避け続けていたんだ。
転校する前日、ユウは突然僕の家に遊びにきた。
僕の好きなお菓子をいっぱい買ってきてくれて。
『別れの挨拶にきた。少し、話さないか?明日引っ越すんだ…』
『そっか…』
そのとき家には両親が丁度いなくて。僕はユウと二人きりだった…。僕はその場でユウを追い出すことができずに、自分の部屋に仕方なく通してしまったんだ。
ユウがテーブルの上に買ってきてくれたお菓子を置いて、いつものよう僕のベッド上にソファ代わりに座り込む。
僕もいつものようにユウの隣りに座り、うつむく。
『アレン…ごめんな?』
『ッ…』
間近でユウの声を聞いたのは久しぶりで…優しい、落ち着く声音。
涙が滲む…。
僕は、ユウの悲しそうな謝罪の言葉に罪悪感でいっぱいになった。
この1週間、僕の勝手でわがままな態度は、君を傷つけたよね。
だって、認めたくなかったんだもの。
いつも一緒にいた君が、突然いなくなるなんて…。
裏切りだと思ったんだ。
だから、一人で怒って一人で拗ねて…君を無視した。
『ユウ…行っちゃ嫌だよ…』
ボロボロと流れる涙は、自分では止められない。
コツン…
ユウは僕の頭を片手で支えると、自分の頭に引き寄せる。
ユウのサラサラの黒髪が、頬を撫でた。
落ち着くな…。
それからどれだけの時間が経っただろう、夕焼けだった窓の外は暗闇に代わりつつある。
『アレン…』
『ぇ…何?』
ドサッΣ
ユウに、頭を支えられたまま肩を押されてベッドに押し倒された。
肩を押さえるにユウの手に力が加わり、痛い。
『ちょ…痛いよ。ユウ、どうしたの…?』
ユウの行動に戸惑いながらも、不安が僕を襲う。
『最後なんだ、思い出…くれよ?な…』
ビリリッΣ
ユウは、僕の着ていた前止めのシャツを前後に引き裂き、それと同時にボタンが弾け飛んだ。
『な…///何すんのっΣひゃあッ////』
乳首にぬるっとした感触。暗がりの中、ユウが僕の胸に顔を埋め乳首を舐める水音が耳に響く。
『ねぇ…な…にしてるのっ///状態は止めてよ…やだぁッ////』
ユウは、体重を僕の上に乗せて馬乗りになる。
片手で僕の頭を撫でながら、片方の手でズボンを引き下ろす。
『嫌っ…』
下着も下ろされて、萎えた性器があらわになった。
『いっ…あぁッ///』
性器を優しく揉まれて包まれて、始めての感覚に目眩する。
『何…これ…変、だよぅ…』
『精通してないのか?』
『せぃ…?』
『ここを気持ち良くして射精することだよ…』
ちゅくちゅく…
激しく扱かれて、何がなんだかわからない。
『あっ…ああん…ダメぇ…////』
何かくるっΣ怖い怖いよ…
『いやぁッ!!!』
背筋がぞくぞくして、幼い性器から何かが弾けた。
『はぁはぁ…』
変な匂いが鼻をつく。
『精通おめでとう、アレン。俺も気持ち良くしてくれよ?』
何がなんだかわからない暗がりの中、うごめくユウの姿しかわからない。
『痛っΣ///』
お尻の穴に何かが入り込み、中を掻き回される。
『痛、痛いよぉッ///』
『我慢しろ…な?すぐに気持ち良くしてやるから…』
ちゅくちゅく…
お尻がむずむずして気持ち悪い…。ユウの指だと理解した物が、水音を立てながら僕の中を行き来する。
『アレン、力…抜いてろよ…』
足をいっぱいに開かれて、熱い何かがソコに触れた。
灼熱が押し寄せる…激痛が全身を駆け巡った…。
無理やりに開かれた体は、みしみしと音を立てて悲鳴を上げる。
激痛に耐えられなくなった僕は、そのまま意識を手放していた…。
次に目覚めれば窓の外は青く晴れ渡り、雀のさえずりが朝の訪れを知らせている。
全身に走る痛みに顔をしかめた。
布団は掛かっていたが、服はユウに破かれ乱されたままで…。
シーツには赤と白の染みが、昨日の出来ごとを刻み付けるように残っていて。
ユウは、その日からいなくなった。
僕に、忘れることのできない傷跡を残して…。
*-*-*-*-*
フラッシュバックした映像に、顔が青ざめる。
再会した神田…。そこには嬉しさと恐怖が複雑に絡み合っていて…。
「先生」
突然神田が手を上げて先生を呼ぶ。
「何だ?」
「アレン君の具合が悪そうなので、保健室に連れて行きたいのですが、よろしいですか?」
「…おっΣ本当に顔色悪いな、アレンι神田、転校してきたばかりで悪いがよろしく頼む」
クラスのみんなも「大丈夫~」「早く保健室行ってきなよ」と心配してくれて、断れない雰囲気になってしまった。
神田は席を立ち上がると、僕の前に立つ。
「行こうか?」
「…」
仕方なく僕は席を立ち上がって、神田の後に着いて教室を出た。
これから何をされるとも知らないで…。
幼い頃に植え付けられた、不安と恐怖だけしか…もう何も考えられなかった。
本当に具合が悪いみたい…ι
「神田君、保健室はそっちじゃないよ?」
「…」
「ねぇ…聞いてるの?」
神田は黙ったまま、一時間目は使われていない移動教室の前で歩みを止める。
「ここは視聴覚室、保健室は一階で…」
僕が説明していると、神田は視聴覚室の扉を開けて僕の手首を掴む。
「ぇ…?」
凄い力で引っ張られて、視聴覚室の中に入ってしまった。
入ってしまったことに、僕は後悔する。
ガチャ
鍵を閉める音に、体がビクッとなった。
「ぇ…?何で鍵閉めるの?」
僕に近付く神田に、後ずさる僕。
壁に行き着き、逃げ場をなくす。
「やっと会えたな…。もう離してやらない。アレン、あのときの続きをしよう?」
キレイな東洋人形みたいな顔に迫られて、その迫力と美しさに目が釘付けになる。
あぁ、僕はきっと…この人からは逃げられない運命なんだ。
神田…。
ううん、ユウ…。
「お帰りなさい、ずっと待ってたよ…。ユウ」
神田の瞳が見開かれ、力強く抱き締められた。
君の呪縛は僕の胸に気持ちよく、僕を縛って離さない。
だから
だからね
これからはずっと一緒にいてね?
あの幼い日の別れのときから、きっとその前から…僕は君が好きだった。
これからは、離れていた空白のときを埋めるように…
ずっと僕の側にいて下さい。
END