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きょうの社説 2009年7月18日
◎絵本ワールド 親子愛はぐくむ言葉を家庭に
全国の児童相談所が昨年度に受け付けた虐待相談件数が過去最多を更新したことが厚生
労働省の集計で分かった。ゴミ箱に押し込めて窒息死させたり、ドライヤーやたばこの火を押しつけてやけどさせるなどの傷害事件も後を絶たず、そうした深刻な虐待のニュースに接するたび、「親と子の絵本ワールド」の過去の講演で、児童文学者の松居直さん(福音館書店相談役)が語った言葉が思い出される。松居さんは近年の少年犯罪を例に挙げながら、「最近、生命を大切にする感覚が急速に 失われてきている」との認識を示したうえで「いま最も大切なことは家庭に生命と愛に満ちた言葉があること。そして、古今東西の本の中に子どもたちへ伝えるべきすばらしい言葉がある」と述べ、親が本を読み聞かせることの大切さを訴えた。 本来は強いきずなで結ばれているのが親子なのに、痛ましい事件を起きてしまうのは親 と子が血の通った言葉を交わす時間をもてなかったことも関係しているのではないか。松居さんの言う「生命と愛に満ちた言葉」が最も詰まっているのが絵本であり、その豊かな言葉の世界を親子に伝えてきたのが「絵本ワールド」と言ってよいだろう。現代の世相に照らせば、その開催意義はますます重みを増しているように思えてならない。 今年の「親と子の絵本ワールド・イン・いしかわ」は18日から3日間、「絵本が育( はぐく)む親子愛」をテーマに金沢、小松、鳥越の3会場で行われる。超大型絵本の読み聞かせや3D絵本などの展示、絵本作家の講演、手作り絵本講座など、絵本の奥深い世界に浸れる多彩な企画が用意されている。 テレビや携帯用ゲームに熱中して子どもが本を読まないという親の嘆きもよく聞かれる が、それは読書の楽しさを体験しないまま育ったからかもしれない。読書のきっかけを与えるという点では親の果たす役割は極めて大事である。 絵本好きの子どもを育てることは読書好きを増やすことにもつながっていくだろう。「 絵本ワールド」を、読書の原体験と言われる絵本の魅力や、読み聞かせの大切さを再認識する機会にしたい。
◎殺人の時効廃止 国民の正義感に沿う判断
殺人罪などの時効廃止を盛り込んだ法務省の最終報告は、犯罪被害者の権利保護と国や
地方自治体による支援の充実をうたう犯罪被害者基本法施行の流れに沿う内容である。罪を犯しても一定期間を経れば起訴を免れる公訴時効制度には疑問が多い。犯罪被害者や遺族から見れば「逃げ得」のように映り、理不尽としか思えないだろう。法務省によると、03年から07年の5年間で公訴時効を迎えた殺人事件は実に241 件に上るが、もとより遺族の悲しみや苦しみに時効などあるはずがない。殺人など最も重い刑が死刑にあたる犯罪についての公訴時効の廃止は、国民の正義感や規範意識に照らしても妥当な判断に思える。 時効制度を設ける理由は、時間の経過によって▽証拠が散逸したり、事実確認やアリバ イの立証が難しくなる▽被害者・遺族の処罰感情が薄れる▽加害者は長期間、罪の意識にさいなまれている―などとされてきた。 だが、今ではDNA鑑定の飛躍的な精度向上やパソコンによるデータ処理技術の発達で 、情報の一元管理が容易になった。被害者や遺族からの聞き取り調査では、相当の時間を経ても処罰感情が薄らぐことはないとの見方が強まっている。平均寿命が延びるなか、時効廃止は犯罪抑止の効果も期待できるだろう。 時効廃止によって、捜査機関の負担は重くなる。一定の捜査人員を維持したうえに、証 拠物の保管にこれまで以上に気を遣わねばならないからだ。日本弁護士連合会などは、時効廃止によって、冤罪(えんざい)を生む可能性を指摘している。 クリアすべき課題はあるが、一昨年、殺人容疑の公訴時効が成立したスイミングコーチ 安實千穂さん殺害事件(92年10月、金沢市三十苅町)の遺族の苦しみや捜査員の無念を思うと、廃止の方向性は正しいと考える。 昨年から刑事裁判で被害者参加制度が始まり、カヤの外に置かれた被害者の苦しみに光 が当たるようになった。被害者の人権保護がこれまで、ないがしろにされてきたことを猛省せねばならない。
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