2009年7月18日11時1分
シリン・ネザマフィさん
本谷有希子さん
西川美和さん
第141回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)は、芥川賞が劇作家2人と外国人、直木賞は映画監督が候補になり、異ジャンル・異文化の風が賞レースをにぎわせた。芥川賞は大手商社マンの磯崎憲一郎さん(44)の「終(つい)の住処(すみか)」、直木賞が北村薫さん(59)の「鷺(さぎ)と雪」に決まり、手堅い作風に軍配が上がったが、文学の世界への新しい才能の参入に期待は高まる。
芥川賞の選考経過は山田詠美選考委員が報告した。イラン人でシステムエンジニアのシリン・ネザマフィさんの「白い紙」は、「(昨年受賞した中国人の)楊逸(ヤン・イー)さんは独自にインパクトある小説を日本語を駆使して立ち上げたが、ネザマフィさんはそのレベルに至っていない」との理由で見送られたという。
劇作家の本谷有希子さんと戌井昭人さんは決選投票まで残ったが、受賞作とは点差が開いた。本谷さんについては「リーダブル」と評価しつつ、「芝居にしたらおもしろいが、小説なら別の言語にすべき」。戌井さんは「エンターテインメント的なおもしろさはあるが、冗漫。もう一作読んでみたい」との声が多かった。山田さんは「芥川賞は一定レベルの文学作品を選ぶ賞。外国人や異ジャンルの書き手ということは評価する上で話題にもならなかった」と「作品本位」を強調した。
一方、受賞した磯崎さんは40歳を過ぎてデビュー。ある夫婦の20年に及ぶ苦い歳月を描き、「きちんとした時間軸で知的に構築された小説」と評された。近年、派遣労働者やフリーターの新人作家が多い中で、大組織の中枢で働く会社員の受賞は珍しく、別の次元での「異文化」をもたらしたともいえる。
直木賞では、映画監督、西川美和さんの「きのうの神さま」について、選考委員の浅田次郎さんが「映像の世界の人がはっきりと文学といえる小説を書いたのは衝撃だった」と高く評価した。
西川さんは映画監督として長編3作品を発表、いずれも自らオリジナル脚本を書いている。しかし、小説はまだ2作。最初の小説は映画のノベライズなので事実上、今回が初の小説ともいえる。西川さんは、映画と小説の違いについて「映画は2時間という時間の制約や人物の感情を視覚や聴覚でキャッチできるように表現しなければならないので、文字だけで表現できればもっと自由になれるのにと感じることはある」といい、今回は「映画では描ききれない逸話を小説に出来たので、私の中の物語を成仏させられた心地よさがあった」と語る。
浅田さんは、西川さんの映画監督としてのキャリアが小説にもいい影響を与えているのではと指摘し「にらみ続けたカメラやモニターの中で培った目からかもしれないが、一瞬のシーンの切り取り方などうまいと思った。ワンシーンがとても印象的だ」と語った。さらに「今回はいま一歩で賞を逃したが、ぜひ、監督との二足のわらじを履いていただきたい。将来、候補にならなくても本屋で買って読みます」とエールを送った。(小山内伸、都築和人)