第11回
元・新加勢大周、大旗一生の肖像
その登場は、あらゆる意味で異例でした。
93年当時、人気絶頂だった加勢大周に対抗し、新加勢大周がデビューするというのです。
前代未聞の出来事に、メディアは殺到。一夜にして、新加勢大周なる若者は全国に顔を知られる存在になりました。
その後、わずか20日で新加勢大周は坂本一生と改名。トレードマークの黒いタンクトップと鍛え上げられた肉体で、筋肉タレントとして活躍しました。
しかし、一生さんの人生は、あまりにも波瀾万丈であります。
芸能活動をいったんは離れ、初代タイガーマスクこと佐山聡の「掣圏道」に入門。さらにトラックの運転手、建設現場での肉体労働、レストランの店長、ホストと様々な仕事を経験。
名前も、坂本一生から坂本一世に。そして現在は、大旗一生として活動しています。
昨年、フリーでの活動に終止符を打ち、松竹芸能に所属。現在も芸能活動を続ける不屈の男、大旗一生さんにその半生をうかがってきました。
新加勢大周デビュー騒動と
流転の芸能生活
新加勢大周デビュー! その一報は、ワイドショーのみならず一般のニュースとしても届けられた。93年、人気俳優として活躍していた加勢大周に対して、新加勢大周が名乗りをあげたのだ。後の坂本一生その人である。あの衝撃的な記者会見から16年。一生さんは、様々な紆余曲折を経て、大旗一生として現在も芸能活動を続けている。その紆余曲折がまた壮絶なのだが、ひとまずあのデビューの舞台裏から話を進めよう。
「じつはあの時、僕は加勢さんのことをよく知らなかったんですよ。オーストラリアに留学してたんですけど、帰国した成田空港でスカウトされたんです。で、新加勢大周としてデビューさせるって話を聞かされたんですけど、よくわからなかったので、まあ、いいんじゃないですか、わかりましたって(笑)。もし知ってたら、さすがに考えましたよ。知らなかったからできたんです。デビューして、すぐ後悔しましたね。あ〜、もう辞めたいって(笑)。NHKでも取り上げられたんです。新加勢大周デビューという報道として。僕、NHKに出たいと思ってましたけど、そういう形で出たいわけじゃないんだけどな〜 と(笑)。その後も、車を盗まれたり、知らないやつにスパナで殴られたり、僕って、いっつも事件になるんですよね。去年、お祓いしてもらったんですけど、もう2回事故りました(笑)」
とにかく平穏無事とは無縁の人生である。デビュー後は、主にバラエティ番組で体を張った活躍をしていたが、収入的には厳しい状況だった。
「当時デビューしたてで、あんまりギャラをもらってなかったんですよ。だから、親に援助してもらってたりして。そのわりに、顔は知られちゃったし、プライベートはまったくなくて。それなりの見返りがあれば、海外に行って羽を伸ばしたりとかできて、まだよかったんでしょうけどね。でも 、僕はお金がないから現実逃避できない(笑)。事務所を移籍しても、だんだん仕事も減ってきて。おむすびころりんじゃないですけど、ゴロゴロゴロって下り坂でしたから(笑)。芸能界は甘い世界じゃなかったですね。いいときはいいですけど、悪いときはお金も入ってこないし、落ちぶれたとか言われる。それはしかたないとはいえ、厳しかったな〜。いまだに新加勢大周って言われたりしますしね(笑)。僕、3回名前を変えてるんですよ。新加勢大周から、坂本一生、坂本一世、今は大旗一生って名前でやってるんですけど。坂本一世っていう名前は、ルパン三世が好きだったから気分転換で変えたんです(笑)」
そして、1999年世紀末。しばらくぶりに一生さんのニュースが流れる。なんとそれは、プロレスラーを目指して、初代タイガーマスクこと佐山聡の格闘技団体「掣圏道」に入門するという衝撃展開だった。
「当時、芸能界からプロレスデビューってなかったと思うんですよ。話題性もあるし、周囲からもすすめられて。僕に対しては、佐山さんもちょっと甘かったと思うんですけど、それでもハードでしたね。いきなり腕立て100回、スクワット300回、背筋100回やって、それで今日は終わりかと思ったら、『よし、ウォーミングアップ終わり!』って。まだ始まってもいなかった(笑)。いろいろトレーニングさせてもらったんですけど、佐山さんはすごかったですね。構えただけで、もう怖い。見えないところからいきなりパンチが飛んでくる(笑)。天才ですよ。練習中のプレッシャーもすごくて、僕がサンドバッグにミドルキックとかしてると、竹刀片手に怖い顔で、じ〜っと見てるんです。で、『一生くんさぁ〜、やる気あんのか!』って怒鳴られる(笑)。『あります!』って叫んで全力でキックして。すると、『それだよ、それ。気合入れろよ! ん〜、あと100本ね』みたいな。でも、体重はなかなか増えないし、年齢も27歳だったし、レスラーとしてはちょっとどうにもならなくて。まあ、なんだかんだで、結局帰りました(笑)」
プロレスラーも断念、芸能活動は休止。それでも生活していかなくてはならない。
一生さんは、様々な職業を転々とすることになる。
改名 タンクトップ 加勢大周 坂本一生 大旗一生 | |
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(掲載日 2009.02.05)
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