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温暖化対策にも限界 小粒化する山田錦

6月30日9時23分配信 産経新聞

温暖化対策にも限界 小粒化する山田錦
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(写真:産経新聞)
 「最近、小粒になってきたなあ」

 天保12(1841)年創業の蔵元「聖酒造」(群馬県渋川市)。7代目当主、今井健介さんの目は、わずかな変化も見逃さない。視線の先には、酒造りの命ともいえる山田錦の米粒があった。

 聖酒造の大吟醸「関東の華」は、今年5月の全国新酒鑑評会で2年連続の金賞に輝いた。10年で8度の戴冠だ。酒米の王様とも称される山田錦に負うところが少なくない。

 日本酒用の稲・山田錦の主産地は兵庫県の東南部。その米粒には酒の雑味となるタンパク質や脂質が少ない。コメの表面を磨き、デンプン質以外の成分を削り落として酒造に使う。

 粒の大きさが山田錦の特徴の一つだが、その特質が薄らぎかけているというのだ。

 山田錦の8割を主産する兵庫県東南部は、室町時代から酒の名所として知られる土地だ。六甲山系の内陸に位置して昼夜の寒暖差が大きいことや、ミネラル類の多い粘土質土壌が、酒米の栽培に適していた。

 1936(昭和11)年に山田錦が生まれたことで、さらに酒米作りが盛んになったといわれる。

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 日本各地の蔵元が必要としている山田錦が小粒化している。

 「温暖化の影響が考えられます。気温が高いと、穂が出る時期が早まってしまいますから」

 酒米試験地(兵庫県加東市)の主任研究員、池上勝さんは、気温上昇が山田錦に及ぼす変化を憂慮する。稲の穂が出る「出穂(しゅっすい)期」は8月下旬なのだが、1998(平成10)年以降、これが確実に早まっているという。

 夜の気温が高いと、稲が栄養分を消費してしまい、デンプンの詰まった大きな米粒ができなくなる。

 また、デンプンの品質も低下する。池上さんは、出穂期から刈り取り直前の10月上旬までの気温がデンプンの分子構造に影響を与える可能性について説明する。

 「酒米のデンプンの80%がアミロペクチンと呼ばれる枝分かれ構造を持つ高分子。高い気温の下で合成されたそれは、結合が長く延びたものになるのです」

 結合が長いと、麹(こうじ)菌による分解が手間取るので、日本酒を搾り出す前の、もろみの状態になりにくくなりがちだ。聖酒造の今井さんは「毎年、山田錦の品質を見極めながら、酒造工程を工夫している」という。

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 山田錦の栽培は、温暖化に妨げられようとしているようだ。

 「20〜30年で平均気温が2、3度上がるとなると、今の品質を維持するのは厳しいかもしれない」と池上さんは打ち明ける。

 栽培農家は田植えを少しずつ遅らせて、コメが充実する登熟時期を晩夏から秋に移行させ、稲穂が高温下にさらされる時間を減らす努力をしている。田植えのときに苗を植えるのではなく、種もみを水田に直接まくなどの工夫もしている。

 ただ、こうした対応策には限界がある。山田錦はもともと田植えの時期が遅い品種なので、これ以上遅らせると登熟期の日照時間が不足するためだ。

 長期的には、高温に強い品種に改良することも必要だろうが、今の米質が維持されるかどうか。

 温暖化の進行の中で「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり」(若山牧水)という短歌が思いだされる。(小川寛太)

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最終更新:6月30日9時23分

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