不易と流行
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発展と停滞。都市と農村。伝統的な二極構造にウェブ世界が加わり三極構造へと変貌する中国社会。 その不易と流行を一体として捉えようと中国世界を路地裏から体感しています。

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着色料を混ぜたスイカ--中国「食の安全」考

 中国のスイカ農家(“瓜農”)にとんでもないことが起こっているようです。

 報道(中国青年報など)を総合すると、事件の顛末は次のようなものです。

 ・スイカの出荷の季節。海南島のスイカ農家は、広東省への出荷準備に忙しい時期、その広東省のある新聞で、海南島産のスイカには赤の着色料(红药水)が混ざっている、との報道があった。

 ・しかも、この報道がネット上で大きく転載され、香港の新聞にも掲載されたため、海南島産のスイカは大暴落。毎年、平均して500グラム当たり0.8元-1.0元で販売されていた海南島産のスイカは、500グラム0.3元でも誰も買わなくなってしまい(「无人问津」)、売れ残ったスイカが島内各地で放置されたまま腐っている。当局の統計では、少なくとも海南島だけで3000万元の損失がでているとのこと。この「着色料報道」は、全国各地に影響をもたらしており、山東省、河南省、湖北省、寧夏回族自治区などのスイカ農家にも被害が広がっている。

 ・問題は、どうして、このような「荒唐無稽」な悪意の報道が、一気に広まっただけでなく、何の策もとられることなく、事態が悪化してしまったのかということだ。これが、ネット時代の悪弊ということなのか。少なくとも、普通の判断力があれば、そんなことにごまかされることなどありえないのではないか・・・。

 ・この記事を書いた記者に電話連絡が取れたが、たんに「話題作り」のために、「軽い気持ち」で記事にしたとのことである。もちろん、何の検証もしていない。この大馬鹿野郎のために、農民の汗の結晶が、ただ腐り果てていくだけなのである。

 ・紅楼夢に「假作真时真亦假」という言葉がある。「本当のようなうそが広まると、本当のことを誰も信じなくなる」という意味だ。鳥インフルエンザなどが大きく報道される中、「食の安全」に多くの国民の関心が寄せられていることに便乗した悪意の報道が招いた悲劇である。

 ・今年に入って、ケンタッキー、ネスレ、ハーゲンダーツのような有名な外国ブランドでも、食の安全を脅かすような事件が続発している。中国国民が非常に神経質になっていることを利用したものだ。

 ・今回の誤報騒動で非常に遺憾なことは、最初にこの記事を書いた記者が、あろうことか、まっとうな新聞社の記者であることだ。マスメディアの競争も激しくて、みんなが特ダネを躍起となって探す中、これは理解できることであるが、理解できないのは、このようなちょっと検査してみればすぐわかることを、多くのメディアが何の批判もなく転載したことである。
 (这次误杀还有一个令人遗憾的地方在于,最早传这个假消息的居然是一家正规的报纸。能够理解,现在媒体竞争激烈,大家都在到处寻找独家消息,但是不能够理解的是,只需要一个简单试验就可以揭穿的这样一种荒唐说法,怎么会这么轻易的刊登出去,并且被连续多次转载。)


 この騒動、みなさんは、どのように感じますか?

 私は、3点。

 まず、第一に、中国にはレベルの低い記者がたくさんいるということ。特に、香港や広東省の記者にこの傾向は顕著だと思います。江沢民さんが、在任中に、香港の記者を公衆の面前で「一喝」したこと(確か、「もう少し勉強してから質問しなさい」と言うような内容だったと思います)が、日本などでは「報道の自由」を侵すといった文脈で報道され、或いは広東省の大新聞が当局によって閉鎖されたりすることも「言論弾圧」として捉えられることが多いですが、当局から注意を受ける報道機関や記者の側にも、問題がないわけではない場合も有ります。第一線の現場では、金銭授受が当たり前のように行われている現実を、中国国民はみんな知っています。

 因みに、香港の記者で思い出しましたが、朱鎔基首相の就任記者会見で、朱鎔基さんが「鞠躬尽瘁,死而后已(生きている限り国に忠勤を励む)」とおっしゃったことを香港の記者は出典はおろか意味もわからず、ある香港の記者は「永久政権を目指すことを宣言」ととんちんかんな報道をしたということがあり、大陸で失笑を買ったことがあります。「鞠躬尽瘁,死而后已」(jūgōngjìncùi sǐérhòuyǐ)とは、日本の方でも古典がお好きであれば直ぐに分かると思いますが、諸葛孔明の「後出帥表」の最後のくだりで、中国国民であれば小学生でも知っている有名なことばです。朱鎔基さんの記者会見にでるくらいの記者でも、香港の記者の中には、その程度のレベルの記者も混じっているということです・・・)。

 第2に、これを批判する報道機関の馴れ合い体質に腹が立ちます。本文中には、わざわざ原文を載せましたが、「マスメディアの競争も激しく、みんなが特ダネを躍起となって探す中、これは理解できることである」とは何事でしょう!記事を捏造しておいて、その新聞と記者の実名も公表しないことには驚きを感じます。農民に対する同情心のかけらも感じません。報道を批判しているのか弁護しているのかすら区別できないのです。信じられない。

 第3に、農民の無力さです。今の時代、ネットで攻撃されたら、ネットで反撃しないとだめですよ。損失が深刻になってしまった今は、もうネットで反撃しても手遅れですが、少なくとも、立ち上がって、この記者と新聞社を告訴すべきですよね。日本の「かいわれ騒動」では、管直人さんがテレビの前でかいわれを食べるデモンストレーションをしました。大阪の農家が裁判に打って出て、確か勝訴したのではなかったでしょうか?

 Web2.0の時代です。テイルヘビー(中国語では「草根」と表現されることが多いようです)の農民が発言権を持つことができる時代です。このブログで繰り返し述べていますが、Web2.0の波が、中国の徹底的した二元性(「不易と流行」)を根本から覆す可能性があるのではないかというのが私の考えですが、このような事件があると、その前途は多難であることが実感されます。

 みなさんは、この事件、どのように思われましたか?ご意見ご感想などお聞かせいただければ幸甚です。



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