2009年7月18日0時3分
IMFの世界経済見通しはようやく実感に近づいてきた。2009年に底入れ後、EUの立ち直りは厳しく、対応が素早く金融バブルもなかった日本は、早めの回復を予想している。米国は政策効果を評価してか、強めの推移を予測しているが、過剰債務の重荷を考えるとまだ甘めだろう。中国やインドの成長率は高いが、先進国の停滞をカバーするには不足で、世界経済は低めの成長の時代に入ることになる。
そこではどんな流れが始まるのだろうか。今回の世界的バブルの原因は、端的に言えば金融の拡張作用の使い過ぎにある。政策手段としても財政よりは金融を、個々人の利殖においても(ファンドも含めて)金融のレバレッジをフルに使って、高成長、高リターンを推し進めた結果である。だとすれば、立て直しの鍵は、ケインズ主義への回帰でも、新自由主義の純化でもあるまい。
「量の拡大」から「質の改善」へのパラダイムの転換こそが要で、「一人ひとり」を大切にする原点からの再出発が必要である。今や一人ひとりが裁量できる自由の範囲、情報力、行動範囲は飛躍的に拡大し、その生き方の質を改善する条件は豊かに整っている。
しかし、マネー資本主義やグローバリズムは、人々の多様性を洗い流し、企業の労使関係でも、一人ひとりの個性や願いの実現は軽視されてきた。そのアンバランスが生きがいの喪失や絆(きずな)の分断などを招いた。だとすれば、物やサービスの提供においても顧客一人ひとりの暮らし向きや人生の目的に「ジャスト・フィット」することに焦点を絞って、無理、むら、無駄を徹底して排除する新しい競争が生まれる必然がある。(瞬)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。