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分裂選挙?―時代錯誤もはなはだしい

 麻生首相がどうやら逃げ切りそうな様相だ。「反麻生」の議員らから出されていた自民党両院議員総会の開催要求を退け、予定通り21日に衆院解散に踏み切る見通しだ。

 東京都議選での歴史的大敗とその直後の解散予告をめぐって、党内には首相批判のうねりが起きかけていた。これに対しては、解散の直前に非公式の「懇談会」を開き、首相がみずから釈明するという。

 つまりは「ガス抜き」で事態を収拾しようということなのだろう。

 おさまらないのは、130人以上の署名を添えて両院議員総会を求めていた中川秀直元幹事長ら「反麻生」の人々だ。党大会に次ぐ議決機関である総会で、あわよくば総裁選の前倒しを決めようと策を練っていた。

 中川氏らの間では、麻生自民党とは別に独自のマニフェストをつくって総選挙に臨もうという動きが出ている。新しい首相候補の名前を掲げようという声も聞かれる。そうなれば、自民党は事実上の分裂選挙に突入する。

 コップの中の争いにいくら精力を費やそうと自民党の党内問題だが、それが総選挙の場にまであふれ出てくるとなると話は別である。

 選挙制度が中選挙区制だった時代には、自民党内の主流派と反主流派が分裂して選挙を戦うこともなかったわけではない。自民党政権という大枠は揺るがない55年体制の下で、党内抗争を選挙で決着させたのだった。

 その気分を小選挙区制となった今の総選挙に持ち込むのは、大変な時代錯誤であり、思い違いもはなはだしい。

 政権交代可能な政治システムを目指して、個人本位から政党本位の選挙制度に転換したのが90年代の政治改革の核心だ。税金からの政党交付金も、政党本位の政治が前提になっている。

 有権者はそれぞれの選挙区で政権を託す政党を選ぶ。その最も大事なよりどころが政党のマニフェストだ。政党にとっては、4年間の任期で実現を約束する「国民との契約」である。

 同じ党のなかからマニフェストが二つも三つも出てくれば、有権者は選択のしようがなくなってしまう。それは政治改革の流れを後押ししてきた国民への背信だろう。

 自民党のマニフェストを一本化する責任は、何と言っても首相にある。分裂選挙となるのを放置し、有権者を惑わすことは許されない。「ガス抜き」で事は決して終わらないことを首相は肝に銘じるべきだ。

 野党にも責任あるマニフェストを早く有権者に示すことを求めたい。

 とりわけ政権をうかがう民主党は、4年間という時間の制約と、限られた財源のなかで、どの政策を優先するのか。政権運営の仕組みを含め、分かりやすい青写真を示さねばならない。

西松元社長有罪―政治はどう応えるのか

 西松建設が社名を隠し、実体のない政治団体名で政治家周辺に偽装献金していたとされる事件で、裁判所の判断が初めて示された。

 この手法で民主党の小沢前代表側や自民党の二階経産相側に献金などをした西松建設の国沢幹雄元社長が、政治資金規正法違反に問われていた。東京地裁の判決は禁固1年4カ月、執行猶予3年の有罪だった。

 西松建設は東北地方の公共工事を談合で受注するため、受注業者の決定に強い影響力を持っていた小沢前代表の秘書と良好な関係を築こうとした。こう判決は述べ、小沢氏側の影響力が事件の背景にあったことを認めた。

 一方で「特定の公共事業を受注できた見返りではない」とも述べ、「偽装献金によって小沢事務所からの『天の声』を受けた」との検察側の主張については判断を示さなかった。

 別に起訴されている小沢氏秘書の公判日程は決まっていないが、秘書側は全面的に争う構えだ。政治家側の刑事責任についての判断はこちらの判決を待たねばならない。

 しかし、献金した側について今回の判決が「政治資金の収支を透明化することで政治活動の公明と公正を確保しようとした法の規制をことさら免れた」と断罪した事実は重い。

 今回の事件について、小沢氏は「やましいところはない」と胸を張ってきた。しかし、その影響力を頼ろうとした業者から10年間で約1億4千万円を受け取り、その大半が偽装献金だったと法廷で認められた。改めて説明が聞きたい。

 自民党も、判決で違法とされたパーティー券代を受け取った二階経産相側をはじめ、多くの議員周辺に西松のダミー団体からの献金があった。その説明責任からは逃れられない。

 また検察も、残る二階氏側の偽装献金疑惑について、早急に結論を出さねばならない。

 ことは西松事件だけではない。鳩山民主党代表への「故人」献金、与謝野財務相への迂回(うかい)献金疑惑なども明らかになった。政治とカネの問題の闇は、相変わらず深い。

 民主党は企業・団体献金の全面禁止を打ち出している。これについて、国民の税金である政党交付金319億円の半分を受け取る自民党は、どういう立場をとるつもりなのか。総選挙を前に各党が、いま一度態度を明らかにして欲しい。

 今回の検察捜査に対しては、「総選挙が取りざたされている時期の強制捜査は異例であり、不公正な検察権力の行使だ」といった批判が起きた。

 しかし、選挙の前に明らかになった政治とカネの実態は、有権者にとって、今の政治を考えるための大事な判断材料といえるのではないか。

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