米国のバン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した20歳の全盲のピアニスト辻井伸行さんのCDを聞いた。
曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。冒頭はクレムリンの鐘をイメージしたといわれる和音だ。手の小さい演奏者は指が届かなくて困る個所だが、辻井さんは軽々と弾いている。美しい響きが印象的だった。
今回の優勝は演奏家としての芸術性が認められた結果だが、ここまで支えてきた母いつ子さんの努力もたたえられてよかろう。11日付の本紙くらし面にインタビューが載っている。
生まれた直後に目が見えないことが判明した。音楽の才能に気付いたのは2歳3カ月の時で、いつ子さんが口ずさんだジングルベルのメロディーをおもちゃのピアノですらすらと弾いていたというから驚きである。
「伸行の個性を伸ばすような教育がどこかにあるはず」と、優れた音楽の先生を探しては指導を受けた。作曲家の三枝成彰さんや指揮者の佐渡裕さんらとの出会いも成長の力となったことだろう。
辻井さんの帰国記者会見で「早くいいお嫁さんをもらって両親を安心させたい」と語り好感を呼んだ。目が見えないことで乗り越えなければならない壁はこれからもたくさんある。持ち前の勇気と明るさで大きく花を咲かせてほしい。