中国の北西、新疆(しんきょう)ウイグル自治区で暴動が起きた。発端は、新疆から遠く離れた南の広東省だった。
ウイグル人出稼ぎ労働者が漢人の女性をレイプしたというデマにあおられた漢人大衆が労働者の宿舎を襲い、無実のウイグル人2人を殴り殺した。多数民族が少数民族を襲撃した広東の事件は、コソボ紛争などで起きた民族浄化に通じる気配がする。
この映像がユーチューブで流れると、新疆の区都ウルムチでウイグル人がデモをした。漢人が多数殺害された。ついで新疆漢人の自警団がウイグル人を襲い、おびえた多数のウイグル人がウルムチを脱出した。一連の事件は、漢人の襲撃で始まりウイグル人の逃亡となった。結果的に、多数民族による少数民族の排斥が起きた。
ウルムチの暴動について、香港の評論家たちは期せずしてある書物を引用した。中国の反体制作家、王力雄氏の「わが西域、君の東土」(2007年、台湾・大〓文化出版)である。「新疆はパレスチナ化しつつある」と中国の民族政策を厳しく批判している。
著者の王氏は漢人だが、長年チベットの山河を歩き、中国の民族政策の誤りを告発する文章を書いてきた。新疆に資料を集めに行き、国家機密に触れたかどで投獄された。このとき獄中でウイグル人の独立運動家と出会い、ウイグル問題への理解を深めた。
本の題名が象徴的だ。漢人にとっては西方の領土の「西域」は、ウイグル人の東の土地「東トルキスタン」である。中国政府が絶対に認めない事実だ。
ウイグル人の土地に移住してきた漢人は、征服者として振るまっている。ささいな摩擦を政治事件に仕立て上げ弾圧すると征服者の手柄。若く開明的な知識人ですらこと新疆問題になると「殺せ」という言葉がぽんぽん飛び出す--漢人である王氏の目でみた新疆漢人は植民地の征服者だ。
イスラエルでは、右翼リクード政権がパレスチナ人の土地であるガザ地区とヨルダン川西岸地区にイスラエル人入植者を送り込み入植地をつくらせた。強勢民族による弱勢民族の排斥だ。以来、パレスチナ人の激しい抵抗運動が始まる。
中国でも、西部大開発政策によって新疆に移住してきた漢人の数が急増した。パレスチナのイスラエル人入植者に相当する存在が、今回登場した新疆漢人自警団だとすれば、パレスチナ化が進行しているという王氏の分析は正しい。(専門編集委員)
毎日新聞 2009年7月16日 東京夕刊
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