クリスマス(『大和撫子アスカちゃん!』バージョン)

書いた人:しおしお


 

 二学期も最終日、アスカはいつものようにシンジの後ろを付いて歩きながら帰宅の途についていた。

「そういえば、アスカさんって日本に来る前はドイツに居たんだよね?」
「え? はい…。そうですよ」
「じゃあ、向こうでクリスマスパーティーとかは有ったの?」
「クリスマス……。ええ、確かに有るには有りましたけど…」
「けど?」
「パーティと言うほど大きな事は無かったですよ。家族で祝うという程度です」
「じゃあ、毎年、家族で?」
「いいえ、私はネルフドイツ支部の方達とささやかながらです」
「そうなんだ……」

 シンジはアスカがドイツでしていると言うパーティーを思い浮かべる。
 普段から旧日本女性風の様相を見せているアスカだけに、クリスマスとアスカを結びつけるのは難しいと思っていたからである。

「じゃあ、ささやかながらウチでも何かする?」
「ええ、そうですね。準備は出来てますよ」
「へえ、いつの間にしたの?」
「え? そ、それは……ナイショです…」

 アスカの発言は最後のほうになると声が小さく、シンジには聞きとり辛かった。
 心なしかアスカの頬が赤くなっているようにも見えなくも無い。

「じゃあ、なにかプレゼントでも買わないと行けないね。アスカさんって興味無いのかと思って何にも用意してなかったよ」
「わ、わたくしにプレゼントだなんて……恐れ多いです」
「そんな事無いよ。いつもアスカさんには感謝してるんだから」
「わ、わたくしはシンジさんと一緒に居るものとして当たり前の事をしてるだけですから……」

 アスカは手をオーバーに振ってシンジを制しようとした。

「良いよ。だからこそ感謝の意味を込めるだから、アスカさんの方こそ気にしなくても良いよ」
「そ、そこまでされると気圧されますわ……」
「だから、アスカさんは気にしなくても……」
「わ、判りました。わたくしもプレゼントを用意させていただきます」

 アスカは決意したような表情で、シンジを見ていた。
 その真剣な眼差しに、今度はシンジの方が焦っていた。

「そ、そんなに気合入れなくても……」
「いいえ。シンジさんにそこまでされて何も出来ないようでは、女性として生き恥をさらすことになりますわ」

 何故かアスカは拳を握り締め、闘志をもやしていた。

「い、言わない方が良かったかなぁ……」
 シンジはちょっとだけ後悔していた。

 

 そして12月24日の夜
 葛城家のリビングはささやかながらクリスマスの雰囲気になっていた。
 日本女性の鑑のようなふるまいを見せるアスカからは想像しにくいものの、クリスマスの雰囲気を作り出したのもアスカである。

「アスカさん。なにか手伝おうか?」
「いいえ。男子厨房に入らずと言っていますでしょ。シンジさんは待っててください」

 アスカは割烹着姿でシンジをキッチンから追い出す。
 引っ越してきた当時からシンジは料理などをする事は無くなっていた。
 キッチンの支配権はアスカに握られているのである。

「で、でも……」
「すぐに出来ますからね」
「は、はい……」

 アスカの迫力にシンジは何も言う事が出来なかった。
 アスカ自身、日本ではじめて過ごすクリスマスの為に気合が入っているのであろう。

 

「それでは、これから御持ちしますね」
 シンジがリビングで暇をつぶし始めて10分ほどしてアスカが大きなお盆の上に料理を乗せて持ってきた。
 そして皿を丁寧に並べ始める。

「あれ?」
「どこか不手際がありましたか?」
「ううん。牛肉?」

 アスカが並べた皿の上の料理はローストビーフなど、牛肉料理が並べられていた。

「ええ、クリスマスには鳥を使おうと思いましたけど、やっぱりペンペンさんが居ますから」
「ああ、なるほどね」

 そう言われてシンジは納得していた。
 アスカが来てから葛城家では鶏肉料理は出されていない。
 それはアスカがペンペンに対して配慮をしている為であった。
 シンジはそれまで深く考えずに鳥の唐揚げとかを作ったこともあった。
 しかし、それからはシンジも鳥料理は極力食べない事にしていた。

 

 全て並べ終えると、アスカはシンジの前で座り、丁寧にお辞儀をして見せた。

「それでは、クリスマスオメデトウございます」
「お、おめでとうございます……」

 シンジはアスカにつられる様に正座し、挨拶をかわしてしまっていた。

 それからは、料理を2人で楽しむことにした。
 家に帰って来れないと連絡があったミサトの分に関しては、アスカが小分けして冷蔵庫へと入れていた。

 

 

 そして、楽しいと思う時間はあっという間に過ぎ、2人の会話もどこかぎこちなくなっていた。
 そう、ふたりともプレゼントを渡すタイミングを見計らっていたのである。

「そう言えば、雪って降らないのかなあ……」
「雪ですか?」
「うん。何かの本で見たんだけど、クリスマスで雪が降るとホワイトクリスマスだし……。ヨーロッパとかは雪が一杯あるんだろうね」
「ホワイトクリスマスですか? 大変ですよ」
「何で?」
「北欧ではホワイトクリスマスを吹雪、嵐のときに言うんですよ。決して楽しい事じゃないんです」
「へ〜、知らなかったなあ」

「……」
「……」

 2人とも会話を無くしてしまったのか、リビングで固まったように座っていた。

 

「あ、あのさ……」
「あの…」

 同時に2人の口が開く。
 思わず二人とも顔を真っ赤にさせてしまう。

「あ、アスカさんから…どうぞ」
「は、はい……」
「……」
「え〜っと……」

 アスカが様子を見て、シンジは意を決して声を出した。

「やっぱり、僕が言うよ。この間言ったように、アスカさんにプレゼントを渡さなきゃって思ってたんだ」
「わ、わたくしも……実はそうです……」

「じゃあ、一緒に交換する?」
「は、はい……」

 そのあと、リビングでは2人のプレゼント交換が行われた。
 どんなプレゼントであったのかは、二人だけの秘密らしい。

 しかしそのプレゼントをアスカは大事にする事を決意していた。
 それだけアスカにとって、大事なクリスマスであったらしい。

 

<おしまい>


(2001年12月25日発表)

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