08年度決算で見るIT業界 ようやく感じられる変化への息吹09年度業績見通しを見る限り、多くのITサービス会社が2期連続の減収減益になる可能性が高い。業界は3度目の不況の真っ直中にある。 08年度決算説明会で、多くの経営者が業績悪化の原因に挙げるのは、08年度後半からの金融不況の影響である。「当初目標を達成できなかったことは残念だった」と話す経営者の口ぶりは、「不景気にならなければ、目標を達成できた」と言わんばかりだ。 だが、業績悪化は本当に金融不況の影響だけだろうか。依然として、単価が下がり続ける一方の受託開発事業に注力していることが、不振の大きな要因ではないだろうか。 現実に、何人ものITサービス会社の経営トップから「景気は必ず回復するので、受託開発の注文が増えるまでじっと待っていればいい」という声を聞いた。このほか「大手メーカーもエンドユーザーも中国へのオフショアを急に増やせるはずがない。受託開発の国内ニーズはまだある」といった期待も聞こえてくる。経営トップの多くは「そのうち何とかなるだろう」と考えているのかもしれない。 ITの世界は今、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などに代表されるクラウドコンピューティングへの移行期にある。将来の成長を考えれば、受託開発とは異なる新たなサービス事業を考えることそこが、トップが果たすべき行動ではないのか。 確かに業績が厳しいなか、新しいサービスの開発や、そのための人材育成に投資を割くのは難しいだろう。グローバル事業の展望を描くことも簡単ではない。だからといって、景気回復に頼り、いつまでも受託開発の事業にしがみつくわけにはいかないはずだ。 このままでは多くのITサービス会社が、ジリ貧になっていくのではないか。後になって手を打っても間に合わない、と筆者は不安を覚える。 それでも、一部の大手ITサービス会社では、ビジネスモデル変革の動きがようやく本格化し始めている。今までのようなモノ作り一辺倒から、どんなITサービスを提供していくべきかへと、考え方が大きく変わってきているのだ。 08年度決算説明会で、印象に残った何人かの経営者の発言を引用してみよう。 「長期的に見れば、受託開発からサービス提供の事業へとビジネスモデルを変えなければ、ITサービス会社はもはや生き残れない」と断言したのは、ITホールディングスの岡本晋社長だ。 日立ソフトウェアエンジニアリングの小野功社長は「景気に左右されず、持続的成長できるよう事業ポートフォリオを組み替える」と語る。同社はシステム開発事業偏重から、安定収益となるサービス事業、高収益のプロダクト&パッケージ事業の3本柱を確立する方針を打ち出した。 日本ユニシスの籾井勝人社長は、「サービス事業をを安定した収益源に育てる」と話す。NTTデータの山下徹社長は「労働集約から近代ビジネスモデルにする」とし、変革に向けて3年間で300億円を投資すると意気込む。 野村総合研究所の藤沼彰久会長兼社長は、「不況期こそ、体質改善のチャンス」と考えており、新たな手を打っていくという。 いかがだろうか。こうした経営者の発言を聞くと頼もしく感じるが、筆者にはまだ不満が残る。 サービス業を志向するなら、利益よりユーザー企業の満足度を高める施策を打ち出すことが大切なはずだ。しかし08年度の決算説明会を聞く限り、ITサービス会社のなかで顧客満足度向上の話題に触れていたのは、NTTデータやJBCCホールディングスなどわずかな企業だけだった。 サービス提供者が顧客満足度を上げるためには、技術力や開発力が重要なのはいうまでもない。これらの力を顧客が納得するサービスにどう仕立て上げるかに、知恵が問われる。新しいビジネスモデルで成果を上げるには数年かかるかもしれないが、早く種をまいた企業の方が刈り取りは早いはずだ。
出典:日経ソリューションビジネス2009年6月15日号
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