vol.42 恍惚の組合?:ユニオンエクスタシー@京都大学
特に東京の大学ではほとんど見られなくなった学生たちの政治運動が依然としてそれなりに残っていたので、一部では「ガラパゴス」なんて呼ばれていました。今では絶滅してしまった希少生物がまだ生きていて、独特の進化を遂げているという皮肉がこもった呼び名でしたが、呼ばれたほうは逆に喜んだりしていたようです。ちなみに経済学部の地下の学部自治会の隣に「ガラパゴス・カフェ」というのがありましたが、その名前の由来でもあります。
今でも時々思い出したように大学に行く機会があるのですが、「ガラパゴス」状態は、一時ほどではないにしてもいろいろな形で継承されているようです。最近では京都大学のサークル活動や政治運動の重要な情報発信の場だった石垣を守ろうという「石垣カフェ」という運動――といっても石垣の上でカフェをやりつつ反対キャンペーンをするといういたってのんびりしたものですが――が、話題になったりしました。
で、「ユニオンエクスタシー」です。これは、図書館の時間雇用職員たちが2007年に作った労働組合です。大学という組織は、外からみるとわかりにくいのですが、実は非常に多くの非常勤の先生や職員の力で動いているものです。そして、その多くは大学という特殊な組織の中でとても低い賃金で働くことを余儀なくされています。
「ユニオンエクスタシー」は、こうした状況の改善を求めて結成された非正規職員二人による労働組合です。大学にはもともと正規の教職員の労働組合がありますが、それが正規教職員の既得権益を守ることに中心をおきがちなのに対して、それよりもはるかに立場の弱い非正規職員の権利を守ることを中心にしていることにその特徴があります。
その「ユニオンエクスタシー」が、最近になって時間雇用職員の5年雇い止め条項の撤廃を求めた運動が一部で話題を集めています。時給計算で勤務している非常勤教職員は毎年契約更新しているのですが、この5年雇い止め条項というのは、その更新の上限が5年を超えないものとするというものです。今京都大学では、2600人の非常勤教職員がいますがこの条項が適応されると2010年度には100人が雇い止めにあうといいます。
これに抗議して、「ユニオンエクスタシー」は、今年の2月中旬に京都大学の正門前にテントを張り、「首切り派遣村」を設置し、ストライキに突入しました。この運動は面白いのは、その組合のネーミングのポップさもさることながら、やはりさまざまな文化運動的な側面があることです。
まずテントの前に大きな魚の頭をどーんとおいて、「首切り」名づけた作品展示(?)をしました。さらに、彼らは、二月末の入学試験期間中に、移動式のドラム缶風呂を「首切り派遣村」に持ち込んで、裸でお風呂に入りながら、「京都大学はすべての受験生を合格させろ」「首切り反対」を叫ぶというゲリラ的なパフォーマンスを行いました。そもそも大学の中にこたつをおいて無期限ストをすること自体パフォーマンス的な要素が強いものです。今後も映画の上映やライブなどいろんなイベントが用意されているようです。
そのようすはYouTubeでも見ることができます。特にドラム缶風呂のパフォーマンスは、賛否両論のようです。その「やりすぎ」の感じのために、まじめな運動とは思えない人がいるかもしれません。
けれども、私にはその過剰さこそがこの「ユニオンエクスタシー」の魅力に思えます。そもそも六〇年代の前衛舞踏やパフォーマンスであれば、この移動式のドラム缶風呂のような「裸」の表現はたくさんみられました。また、それは当時の騒然とした政治の雰囲気もあって、しばしば政治的な表現としても使われてしまいました。
戦後の政治は、こうした表現を飼いならして隠蔽していくことと、政治のラディカルさを飼いならし穏健化していくことをセットで進めてきました。「ユニオンエクスタシー」は、この政治と文化の隠蔽の共犯関係を暴いているようにみえます。そして、その主体がもはや学生ではなく、そこで働く非常勤職員であることに、今日の問題の本質があるように思えます。
ユニオンエクスタシー・ホームページ
http://extasy07.exblog.jp/5773358
「首切り職員村」ストのようす
http://www.youtube.com/watch?v=k2W8yb2x7DQ
http://www.youtube.com/watch?v=2SZaT-4Y7oQ