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堅調「鳩山民主党」が問われる「政権担当能力」

2009年7月13日 フォーサイト
 鳩山邦夫総務相が六月十二日に更迭されたことによって、長く続いた日本郵政の西川善文社長と鳩山氏の闘争は、とりあえずの決着をみた。この一件で麻生政権が深く傷ついたのは間違いない。
 しかし、政権が傷を負ったのは、重要閣僚のクビを切らざるを得ない事態に陥ったからだけではない。むしろ政権にとって痛かったのは、麻生太郎首相の決断力の欠如が露呈してしまったことである。
「もたもたしている印象を与えなかった方がよかった」
 自民党の伊吹文明元幹事長は十二日、今回の問題をそんなふうに総括した。発端は半年前にさかのぼる。
 昨年十二月二十六日の日本郵政の取締役会で、全国各地に点在する保養施設「かんぽの宿」をオリックスに一括譲渡することが決定された。年明けの一月六日、鳩山氏がこれに噛み付いたことによって戦端は切り開かれた。
 五月になると、鳩山氏は六月中にも予定されている西川氏の続投を認可しない方針を表明。西川氏には辞任する考えはまったくなかったため、事態は泥沼化した。
「かんぽの宿」問題はおくとしても、鳩山氏が西川氏の進退に言及してから一カ月近くがたっていた。その間、麻生首相は鳩山氏をはじめとする閣僚らと協議を重ねたようだが、鳩山氏を切るにしろ、西川氏を切るにしろ、結論を出すのが遅すぎた。
 この問題では、小泉純一郎元首相が推進した郵政民営化の正否が論争になったが、それ以上に問われていたのは、首相のリーダーシップだったのだ。
「日本郵政の社長人事ひとつで、これだけ閣僚間でどたばたするというのは、これで本当に大きな出来事が起きた時に、この内閣で対応できるんだろうか、と感じざるを得ない」
 民主党の岡田克也幹事長は、六月五日の記者会見で麻生首相の迷走ぶりをこんなふうに揶揄した。
 岡田氏の指摘を俟つまでもなく、今回の問題は、政府・与党にとっては痛恨のきわみと言っていいだろう。なぜなら、衆院選で「政権交代」を掲げる民主党に対抗すべく、これまで自民、公明両党が民主党に問い返していたのは、「民主党には『政権担当能力』があるのか」という点だったからだ。
 実際に、政府・与党は六月八日の連絡会議で、衆院選に向けて、自公両党と民主党の「政権担当能力の差」を明らかにしていくという戦略を立てていた。しかし、今回の一件でのもたつきぶりは、むしろ麻生首相の方の「政権担当能力」の有無を疑わせる結果になってしまったのだ。

「一割ぐらいは浮くもんです」

 こんな麻生内閣の体たらくを横目に、絶好調と言っていいのが、同じ鳩山氏でも兄の方、民主党の鳩山由紀夫代表である。鳩山代表が地方遊説に出かけると、最近はどの会場も大盛況である。
 五月二十一日夕、さいたま市長選応援のために訪れた埼玉・大宮駅西口ロータリーのデッキには千人を超える聴衆が集まり、六月六日夕、衆院選候補者応援で訪問した広島県福山市の結婚式場では、用意された五百席がすぐに満席となった。入りきれない人々が部屋の入り口で立ち往生したために、すでに着席していた支持者に椅子を持って前に詰めてもらったほどである。
 同じ日の昼、広島市安佐南区の区民センターにも、予定した約七百席を超える聴衆が詰めかけた。
 壇上でマイクを持った鳩山代表は、民主党が掲げている政策には財源の根拠がないという自民党などからの批判に対して反撃を試みた。
「財源はいくらでも出てくると、私は信じている。一般会計と特別会計を合わせると二百兆円あまりになります。そのうちの一割が二十兆円。無駄をやめましょう。一割ぐらいは浮くもんです」
 財源について、「一割ぐらいは浮くもんです」とは言いも言ったり。楽観的なのか無責任なのか。これでは、どこをどう削減するのか、まったく不明である。一事が万事とは言わないまでも、鳩山氏の演説は、ほとんどこんな調子なのである。
 しかし、鳩山氏のこの問題発言を、翌日の紙面でとりあげて問題視した全国紙はなかった。同じ演説の中で、鳩山氏は、「永田町に二羽のハトが総理を襲っている。一羽は正面から戦いを挑んでつつき、もう一羽は中からえぐりとる戦いだ」と、実弟の鳩山総務相が日本郵政の社長人事で麻生首相を攻め立てている問題を持ち出して、「ハト山」兄弟による首相攻撃を戯画化した。これが面白かったため、各紙はこちらの発言を記事にしたのだ。
 問題発言は隠され、威勢のいい部分だけに光が当たって、大きく報じられる。勢いがあるときは、こんなものである。
 民主党は、西松建設事件で小沢一郎前代表の公設第一秘書が逮捕・起訴されたことによって、ぬかるみに足をとられていたが、五月十六日に鳩山氏が代表に就任したことをきっかけに、完全に泥沼からの脱出に成功した。衆院選に向けて、自民党が全力を挙げても、この攻勢を抑え込むのは容易ではないだろう。
 代表交代で、民主党の政党支持率が回復傾向に転じることは、予想にかたくなかったが、ここまでの効果があると見通していた政界関係者は少なかった。
「一過性だと思っている」
 自民党の菅義偉選対副委員長は五月十八日、各種世論調査で鳩山氏への期待感が麻生首相を上回ったことについて、そう言って、切って捨てた。さらに、民主党支持率の上げ基調についても、「代表選が行なわれた直後だから、そういう方向になるのは想定の範囲内だろう」と述べた。
 またこの当時、漆間巌官房副長官も周辺には、「あれだけメディアが民主党を取り上げたらそうなるでしょう。だけど、これがいつまで続くかだ」と述べ、民主党の進撃が長続きするかどうかについて、懐疑的な見方を示していた。
 菅氏や漆間氏が期待感を込めて強がっただけなのか、それとも本気でそう思っていたのかは分からない。しかし、いずれにしてもそうした予測とは裏腹に民主党の攻勢は続いており、六月に入ってもその勢いは止まっていない。

根強い政権交代願望

 その勢いを下支えしているのは、ここ数年間、国民世論の中にくすぶり続けていた日本の政治や社会の変革を求める根強い世論である。このムードが政権交代への期待感となって、民主党への追い風となっている。
 この世論の潮流は、一昨年夏の参院選前ごろから本格的に強まり、現在も続いている。この流れは、西松建設事件というスキャンダルでいったん下火になったように思われた。だが、疑惑の目を向けられた小沢氏が代表職を退いたことで、再び火勢は強まった。
 もちろん、小沢氏の辞任は一種の目くらましにすぎない。民主党の本質は何も変わっていない。
「党首と同様の権限を今まで通りに握りながら、党首としての説明責任を負わないという立場になった」
 甘利明行政改革担当相は五月十九日の記者会見で、小沢氏の立場をこんなふうに解説してみせた。まさに至言ではあるが、この程度の見え透いた「小沢隠し」で、国民の民主党への期待感が戻ってきたということは、「西松事件があろうがなかろうが、もともと国民の政権交代願望は根強い」(民主党選対幹部)ということを、逆に証明している。
 一方、国民世論に蔓延する「政権交代」気分とは別に、民主党の好調ぶりを印象付けているのは、地方選での健闘である。
 四月二十六日の名古屋市、五月二十四日のさいたま市、六月十四日の千葉市と、政令指定都市の首長選で民主党系候補が連勝した。
 しかし、名古屋では、当選した河村たかし氏の個人的なキャラクターに負う部分が多く、さいたまでは、前職の市長への多選批判、当選した清水勇人氏が自民党県議だったこと、保守系候補の分裂など複雑な要因が、民主党勝利につながった。また、千葉市では、前職市長が汚職で逮捕されたが、自民党が擁立した候補者が旧建設省出身の副市長だったことなど、与党側の選挙戦略の失策が目立った。
 つまり、これらの首長選の結果は、民主党に勢いがあったから民主党系候補が当選したのだとはいえない。むしろ、他の要因が大きく影響している。地方選での民主党の勢いは見せかけにすぎないのだ。
 だが、理由は何であろうが、勝ったという事実は重い。見せかけであろうが、自民党のオウンゴールであろうが、この連勝によって民主党の勢いは一段と加速している。
 さらに、注目しておかなければならないのは、この後も主要な地方選挙が続くという点である。七月五日には静岡県知事選、七月十二日には東京都議選が投開票される。六月十一日、麻生首相は自民党の選挙対策関係者を前にして、都議選の意義をこう強調した。
「首都っていうもんが与える影響……。都議選で勝ったか負けたかというのは、一地方選挙とは言え、非常に大きい。気分的なものがすごく大きい」
 都議選と衆院選は別物ではあるが、麻生首相が指摘しているとおり、日本人の投票行動において、「気分的なもの」が占める割合は意外に大きい。都議選でも民主党が善戦することになれば、政権交代へと向かっていく国民の気分をせき止めることは、もはや難しくなるだろう。そして、民主党は政権の座にまた一歩近づいていく。
 民主党も代表選の直後には、不安材料がなかったわけではない。勝った鳩山氏と負けた岡田幹事長(元代表)を支持したそれぞれのグループの間に、激戦の後遺症として、しこりが残る懸念があったからだ。
 五月二十一日夜、代表選で鳩山氏を支持した議員ら約七十人が東京・赤坂の中華料理店に集合した。代表選の打ち上げと称して開かれたこの会合で、あいさつに立った中山義活前衆院議員は、「鳩山―岡田体制をしっかり支えていこう」と発言。その他の議員も鳩山―岡田体制を支える決意を口にし、挙党一致で衆院選に向けた戦闘態勢を固めることを誓い合った。
 鳩山氏支持である出席者たちが、「鳩山体制」と言わずに、異口同音に「鳩山―岡田体制」という表現を使ったのは偶然ではない。その言葉づかいには、党内融和のために岡田氏支持派を取り込もうという狙いが込められているのだ。逆に言えば、岡田氏周辺による反鳩山的な動きがこわかったのである。
 だが、これまでのところ、そうした鳩山氏支持グループの心配は杞憂に終わっている。政権交代に手が届くところまでやって来たという高揚感が民主党を包み、鳩山氏と距離を置く議員たちでさえ、今は党内に波風を立てるべきではないとの立場をとっているからだ。
 むしろ、今の民主党内で多くの議員が不安を感じているのは、衆院選のその先のことだ。ほかでもない政権担当能力についてである。
 民主党の菅直人代表代行は六月一日の記者会見で、率直にこう言った。
「国民の皆さんも民主党に一回はやらせてみようじゃないか、そういう声がかなり高まっています。が、本当に民主党がやれるのかということについての心配もいただいている」
 保守系若手議員の一人も「大変なのは、政権をとった後だ。うまくいくか分からない」と言う。とりわけ、旧社会党系の議員を抱える中で、民主党政権が外交や安全保障政策で現実的な方向性を打ち出せるかについては、保守系議員の多くが早くも頭を悩ませている。
 また、経済政策や社会保障政策にも心配がつきまとう。自民党の伊吹元幹事長は、国民には受けのいい民主党の政策について、「有権者に向かって『あれをする、これをする。しかし、税金はとりません』と言って喜ばせている民主党では、とても日本の政治は動いていかない」と指摘する。
 民主党がこれまで掲げてきた高速道路無料化や子供手当、消費税率据え置きなどの方針は、国民受けがいい。当たり前である。納税者からみれば、公共料金と税金は安い方がいいに決まっているからだ。
 だが、その財源については、民主党は「無駄を省く」というばかりで、不明瞭な部分が多い。伊吹氏の批判は、たしかに的を射ているのだ。
 一方、簡単に実現できそうな政策だけを並べ立てるという安易な選択は、民主党には許されない。国民からみて、それでは自民党から民主党に政権交代した意味がないからだ。つまり、民主党は、実現可能であるにもかかわらず、自民党にはできなかった政策を実行していく必要がある。
 しかし、改めて言うまでもないことだが、景気対策も含めて、自民党が四苦八苦しても解決できなかった問題が、民主党政権になった途端に魔法のように解消するのかどうか、はなはだ疑問である。

不安材料は鳩山代表の舌禍

 民主党には、このほかにも不安材料がある。それは、鳩山代表自身の「政権担当能力」である。特に、鳩山氏の粗雑な発言については、かねて党内ではひそかに問題視されてきた。
 鳩山氏は代表就任直後に、麻生首相のように毎日、記者団による囲み取材に応じることを検討した。だが、周囲の党幹部は反対した。鳩山氏の不用意な発言が及ぼす悪影響を憂慮したのだ。
 鳩山氏が代表に就任した数日後、党幹部のひとりは鳩山氏のメディアへの露出戦略について、こう周囲に漏らした。
「鳩山さんの言葉はよく練られていない。オープンに鳩山さんを見せるメリットと舌禍のデメリット。どっちかといえば、舌禍の方が恐ろしい」
 だが鳩山氏本人の意向もあって、囲み取材は定例化することになり、周辺は神経をとがらせている。
 鳩山前総務相が日本郵政の西川社長の続投を問題視した直後の五月後半、邦夫氏から実兄の由紀夫氏に電話があった。
 邦夫氏「俺は戦うよ」
 由紀夫氏「分かった」
 普段の邦夫氏は、兄弟とは思えないほど激しく由紀夫氏を批判する発言が目立つのだが、裏ではちゃっかり連絡をとりあっている。こうした動きが、かつて話題になった鳩山兄弟による新党結成につながるのかと言えば、今はその機運はない。ただ、衆院選後は何が起こってもおかしくない。
 また、自民党内では、非主流色を強める中川秀直元幹事長の動きからも目が離せない。
 いずれにしても、衆院選後の政局が波乱含みの展開になることは間違いない。衆院選で民主党が勝とうが、自公両党が持ちこたえようが、これは避けられないだろう。なぜなら、どちらが政権をとったとしても、麻生首相も鳩山代表も自らの党の液状化を防ぎ、政局を安定化させるだけの政治力を持ち合わせているようには見えないのだから。
フォーサイト2009年7月号「深層レポート・日本の政治」196より
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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