―― 今年の新作は、さっきおっしゃった集英社の連作短篇集と、他には……?
米澤 予定はあります。ただ、ちょっとまだ原稿が仕上がっていないんで、確定できるものではありませんが。
―― わかりました。がんばって上げてください(笑)。今日は、いろいろとつっこんだお話をさせていただき、インタビューア自身がいちばんおもしろくお話を聞かせていただきました。
米澤 あれこれ考えず、純粋なパズル・ミステリーを、と思うこともあるんですよ。それは僕自身、嫌いではありませんから。たまに「米澤のミステリにはサプライズがない」と言われるんですけど……。
―― そんなことを言われるんですか!
米澤 言われるんです(笑)。そういう批判を聞くと、じゃあやってみようか、という気分にもなります。でも落ち着いて考えれば、今やるべきはそういうパズルではないという気がしますね。これはミステリー作家全般ということではなくて、あくまで自分が、ということですが。
―― ミステリー古典の系譜は、必ずしもパズルばかりではないですし、もっと豊饒な流れがあります。さきほどバークリーの名前を出していただいてとても嬉しかったです。彼は、ミステリーの枠内でいろいろな遊びをやってくれた作家でしたから。「これをやらないといけない」じゃなくて「こんなことも、あんなこともできる」と。だから米澤さんには、もっといろいろなタイプの作品を試してもらいたいと思います。
米澤 〈古典部〉はそういう連作ですね。『遠まわりする雛』では、ハリイ・ケメルマンやオースティン・フリーマン、G・K・チェスタトンといった作家をモチーフにして書くということを試行しました。
―― 以前、『迷宮課事件簿』(ハヤカワ文庫)のロイ・ヴィカーズがお好きということも伺いました。これは倒叙ミステリーの連作で、迷宮入りしていた事件が、一つの証拠品から解かれていくという話です。
米澤 ヴィカーズは、実は試したことがあるんです。あまり指摘されたことはありませんが。
―― 今後、挑戦してみたい作家はいませんか? 正面切って言ってしまうと書きにくくなりますかね。「あれ書いたんだろ」って言われてしまうし(笑)。
米澤 これはミステリーとしての構造問題ではないんですが、エリス・ピーターズも考えています。〈修道士カドフェル〉シリーズですね。実は、アリステア・マクリーン(イギリスの冒険小説)みたいなプロットを提案して、編集者から「何を考えているんだ」って怒られたこともあるんです。
―― マクリーン! おもしろそうじゃないですか。読んでみたい気がしますけどね。
米澤 そういうのはいくらでもあるんです。今度の〈古典部〉は、『遠まわりする雛』を受けて第二シリーズに入らないといけないんですけど、そこのモチーフがまだちょっと固まっていません。やってみたいものはあるんですが、ちょっと料理が難しい。
―― アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』(創元推理文庫)みたいな安楽椅子探偵のスタイルはどうですか?
米澤 あれもすごくやりたいんですけど、〈古典部〉でやると、あまりに動きがなくて「話しているだけ」の小説になってしまいそうなんですよね。周囲から情報が入ってきて、それを会話しながら解決するだけという。〈古典部〉がしろうと名探偵の集まりとして名を馳せて、放課後になると依頼人が押し寄せてくる、という話にしちゃえれば、こんなに楽なことはないんですけど。
―― ご存じ名探偵古典部(笑)。それはそれで読んでみたい気もするんですけどね。……ところで『冬期限定』は、いつごろになりそうですか。
米澤 はははははは。
―― あ(笑)。期待してお待ちしています。今日は興味深い話をたくさんいただきました。本当にありがとうございます。新作も期待しています!