民主党など野党5党が提出した麻生太郎首相に対する問責決議が参院本会議で可決された。衆参両院で野党が全面的な審議拒否に入ったことで国会は実質閉幕状態となり、一気に選挙モードに突入した格好だ。
首相問責決議の可決は、昨年6月の福田康夫首相に対して以来2回目。法的拘束力はないが、審議を拒む根拠にできる。提案理由について民主党の輿石東参院議員会長は参院本会議で、定額給付金や厚生労働省分割をめぐる言動のぶれ、日本郵政の社長人事での指導力不足などを挙げ「首相失格の烙印(らくいん)を押さざるを得ない」と強調した。
一方、野党4党が衆院に提出した内閣不信任決議案は自民、公明両党などの反対多数で否決された。「麻生降ろし」の火種がくすぶる自民党内から造反者は出ず、麻生内閣を「信任」する形とはなった。
麻生首相は8月30日の衆院選投開票に向け今月21日の週に衆院を解散する意向を表明している。国会空転に伴い、衆院解散で北朝鮮貨物検査特別措置法案など政府提出の17法案は廃案となる見通しだ。
貨物検査法案は、国連安全保障理事会決議の要請に基づき、ミサイル関連物資などを積載した疑いのある北朝鮮出入り船舶を検査するのが目的だ。日本は決議採択を主導していただけに、国際社会との協調を図る意味でも早期成立を目指すべきではなかったか。
このほか、日雇い派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案、児童ポルノの拡散防止を強化する児童買春・ポルノ禁止法改正案なども消えてしまう。一本化に向け修正協議が進んでいたものもあっただけに残念だ。
政権の座を懸けた4年ぶりの衆院選に向け、与野党は臨戦態勢に入った。しかし、自民党は内閣不信任決議案を否決でしのいだものの、党内の混乱と対立は激しさを増すばかりで“空中分解”の様相を呈している。
東京都議選など一連の地方選敗北の責任を取って古賀誠選対委員長が辞意を表明し、反麻生勢力の中川秀直元幹事長は「人心一新が必要だ」と暗に首相退陣を要求している。支持率低迷にあえぐ麻生首相では選挙が戦えないとの理由でまた「表紙」をかえるのでは筋が通るまい。
総選挙で厳しく問われるのは、各党のマニフェスト(政権公約)の内容とその実現可能性だ。有権者に十分な判断材料を提供するためにも、各党は明確な将来ビジョンを提示し、政策でこそ競い合うべきである。
全国の児童相談所が受け付ける虐待相談件数が増え続けている。厚生労働省の集計によると、2008年度は過去最多の4万2662件(速報値)で、初めて4万件を超えた前年度を2023件上回った。
集計を始めた1990年度(1101件)から18年連続の増加となった。厚労省は改正児童虐待防止法の施行などを通じ、国民の意識が高まってきたことが背景にあると分析する。
確かに社会全体が児童虐待に敏感になって相談が増えた面はあろうが、虐待の広がりに歯止めがかからない実情を物語っている。憂慮すべき事態である。
虐待で摘発される事件も後を絶たない。原因は核家族化による社会からの孤立や経済状況の悪化、保護者の育児力低下などさまざまな要素が複雑に絡んでいるといわれる。
虐待を防ぐには、兆候を見逃さないよう児童相談所や学校、保育園、地域社会、警察などが連携を密にする必要がある。早期発見と迅速な対応が不可欠だが、根絶は容易ではない。
全国的に児童相談所への相談が増え続ける中、逆に相談が減少した地域がある。都道府県・政令市別にみると、08年度では広島市、三重県などが前年度に比べ20%以上減っている。原因を詳しく分析し、参考になることがあれば公表し対策に生かしてもらいたい。
08年度から相談所の調査を拒否する家庭への強制立ち入り制度が導入されたが、初年度の実施件数は2件だった。
鍵を壊してでも住居に入る強行策だけに、まだ現場にためらいが強いとされる。対応するための人員や専門知識の不足も指摘される。子どもの安全確保のために必要な措置である。現場の意識改革や環境整備が早急に求められる。
(2009年7月16日掲載)