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きょうの社説 2009年7月16日
◎資金繰り支援延長 「出口戦略」は慎重さが必要
日銀は昨日の金融政策決定会合で、9月末までの特例措置である企業の資金繰り支援策
を12月末まで延長することを決めた。政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を据え置くことを含め、いわゆる「出口戦略」に関して日銀の慎重姿勢を示すものといえよう。先のラクイラ・サミットでは、現在の経済危機に対応する例外的な金融、財政政策を元 に戻す出口戦略の必要性で一致し、新興国をも加えた拡大首脳会合の共同宣言には、出口戦略の準備を開始すると明記された。主要国が経済危機を克服した後の政策転換のシナリオを用意し、持続的成長をめざすことは当然であるが、性急な出口戦略はせっかくの景気回復の芽を摘む恐れも強く、慎重に実施時期を見極めてもらいたい。 日銀の白川方明総裁は、社債買い入れなどによる企業金融支援策の延長について、金融 情勢の先行きがなお不確実であり、「できるだけ早く運営方針を出した方がよいと判断した」と説明している。出口戦略に関する市場の思惑で長期金利が変動するような事態を避ける狙いもあるのだろう。 金融、財政政策の出口戦略が議論され始めた一つの理由として、国際決済銀行(BIS )や国際通貨基金(IMF)が、金融安定化と景気下支え策の継続を強調する一方で、出口戦略の必要性を指摘したことがある。特に欧州では、中央銀行の金融緩和や政府の国債増発が長く続くことによって長期金利上昇やインフレ懸念が強まる弊害への警戒心が強いようだ。 しかし、拙速な政策転換の危険性は日本が最も理解しているはずだ。例えば、日銀は2 000年に政府の反対を押し切ってゼロ金利を解除したところ、急激な景気悪化に見舞われ、再びゼロ金利に戻した苦い経験がある。 また政府も橋本政権時代に、景気が回復したとみて消費税率を引き上げ、財政の引き締 め路線に転換した途端、景気がまた失速するという判断ミスを犯したことがある。政府、日銀は重々承知のことであろうが、出口戦略のタイミングを間違えることがないよう念押ししておきたい。
◎知事会の衆院選対応 地に足つけた分権論議を
全国知事会議が8月の衆院選対応で、特定政党の支持表明を見送ったのは当然の判断で
ある。各党の政策を天秤にかけて地方分権を前進させる狙いは分かるとしても、それはマニフェスト(政権公約)の中身をしっかり評価すればいい話であって、分権を判断基準に政党支持にまで踏み込むのは乱暴すぎる。今回の知事会議では、消費税増税に連動する地方消費税引き上げ提言や道州制を求める 緊急提言についても異論が相次いだが、それらのテーマにしても個々の知事の判断を超え、それぞれの地域の幅広い理解が不可欠である。知事会は政党と適度な距離を保ち、分権改革も地域に軸足に置き、地に足をつけた議論を望みたい。 政党の支持表明に関しては、宮崎県の東国原英夫知事が挙手による多数決を求める場面 があった。東国原知事のこれまでの言動をみる限り、「宮崎県のため」と強調しながら自らの政治力や存在感を売り込む意図が見え隠れし、知事会議もそうした場に利用したい思惑もうかがえる。そんな浮き足だった考えなら政党支持表明に賛同が広がるはずもないだろう。 地方消費税引き上げ案については「まず地方の行政改革を徹底すべき」との声が相次い だ。消費税全体の増税を意味する地方消費税引き上げは住民生活や地域経済にも直結する問題であり、「増税の前に行革」は筋の通った主張である。知事会議は自民、公明、民主3党のマニフェストを採点、公表することを了承したが、同じように各自治体の行政改革にも厳密に点数が付けられるとしたら、果たして及第点は得られるだろうか。 東国原知事や橋下徹大阪府知事らはテレビに頻繁に出演し、盛んに発言している。比較 的地味なテーマだった地方分権が衆院選の争点として関心が高まったのも確かだが、これまでの官僚や族議員の抵抗のすさまじさを考えれば、発信力の強さやパフォーマンスのうまさだけで地方分権が進むとは思えない。改革が正念場を迎えるなかで、全国知事会の役割は極めて大きく、今まさに問われているのは地方の結束である。
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