なにわ人模様:河野外科医院理事長・河野朗久さん /大阪
7月7日16時0分配信 毎日新聞
◇虐待判別には法医学の知見−−河野朗久さん(47)=堺市南区
◇行政の放置に危機感 母親の孤独や児相職員にも苦悩
「子どもたちの傷を診る小児科医の多くは、治療を優先する。虐待を受けた子どもは言葉でうまく説明できないばかりか、親をかばうこともある。虐待を見抜くには、法医学の知見が不可欠です」。静かな口調ながら、そう力を込める。
河野外科医院(堺市南区)で外科などの診療をする一方、大阪、兵庫、滋賀3府県の児童虐待防止の専門機関で、乳幼児の外傷の原因を突き止める鑑定に携わってきた。
86〜00年、大阪大大学院で外科などとともに法医学を学んだ。知人の弁護士から「ひどい傷を負った子どもを診てもらえないか」と相談を受けたことが、児童虐待に取り組むきっかけになり、91年から、米国で学んだ診察法を基に本格的に鑑定を始めた。外傷の観察、児童と保護者の問診、凶器の推定−−。保護者の説明の矛盾をつき、正確な鑑定結果を出すと、各地の児童相談所(児相)から相談が相次いた。
児童虐待防止法が施行された00年、大阪府児童虐待等危機介入援助チームが発足。児相職員、精神科医、児童心理士、弁護士らからなるメンバーに加わり、子どもの傷が虐待によるものか事故によるかの解明にあたってきたが、昨年3月に辞任した。病院からの通報で、生後7カ月の乳児のけがを圧迫による頭蓋骨(ずがいこつ)骨折と診断。しかし、両親が医療関係者だったためか、児相は保護をためらい、2週間後、乳児の命は奪われた。「専門家のお墨付きが欲しいだけなら、そんな仕事はできない」。怒りを抑えきれなかった。
同法では、虐待が疑われる段階でも病院や学校などからの児相への通報を義務づけ、児相は保護者に子を伴わせて出頭させることができる。応じない場合は、臨検(強制立ち入り調査)で、子どもの安全確認も可能だ。しかし、親権を盾に職員を怒鳴りつけ、追い返す保護者もいる。「法を機能させるようにシステムを整備しなければ、全く生かされない。現場を見ずに、法律は作れない」。危機感が募っている。
虐待死する子どもがたくさんいることを知った大学院時代、怒りの矛先は虐待をする親に向かった。しかし、相談相手が身近にいない母親の孤独や児相職員らの苦悩など現場の課題を知るにつれ、怒りは虐待を放置し続ける行政に向かった。
子育てに悩み、パニックに陥る母親から、しばしば相談を受ける。「時には、子どもをベッドに置き、そっと離れてみて。一人で子育てせず、いつでも相談できる相手をもってほしい」。そう繰り返している。
「子どもが好き」という熱意で、虐待の現場に立ち続けて20年近く。そこには、親の精神疾患、子どもの発達障害など、根の深い問題が横たわる。「人の苦悩や、責任の重さを受け止めて現場に立ち続けたい」。そう思っている。【望月佑香】
7月7日朝刊
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河野外科医院(堺市南区)で外科などの診療をする一方、大阪、兵庫、滋賀3府県の児童虐待防止の専門機関で、乳幼児の外傷の原因を突き止める鑑定に携わってきた。
86〜00年、大阪大大学院で外科などとともに法医学を学んだ。知人の弁護士から「ひどい傷を負った子どもを診てもらえないか」と相談を受けたことが、児童虐待に取り組むきっかけになり、91年から、米国で学んだ診察法を基に本格的に鑑定を始めた。外傷の観察、児童と保護者の問診、凶器の推定−−。保護者の説明の矛盾をつき、正確な鑑定結果を出すと、各地の児童相談所(児相)から相談が相次いた。
児童虐待防止法が施行された00年、大阪府児童虐待等危機介入援助チームが発足。児相職員、精神科医、児童心理士、弁護士らからなるメンバーに加わり、子どもの傷が虐待によるものか事故によるかの解明にあたってきたが、昨年3月に辞任した。病院からの通報で、生後7カ月の乳児のけがを圧迫による頭蓋骨(ずがいこつ)骨折と診断。しかし、両親が医療関係者だったためか、児相は保護をためらい、2週間後、乳児の命は奪われた。「専門家のお墨付きが欲しいだけなら、そんな仕事はできない」。怒りを抑えきれなかった。
同法では、虐待が疑われる段階でも病院や学校などからの児相への通報を義務づけ、児相は保護者に子を伴わせて出頭させることができる。応じない場合は、臨検(強制立ち入り調査)で、子どもの安全確認も可能だ。しかし、親権を盾に職員を怒鳴りつけ、追い返す保護者もいる。「法を機能させるようにシステムを整備しなければ、全く生かされない。現場を見ずに、法律は作れない」。危機感が募っている。
虐待死する子どもがたくさんいることを知った大学院時代、怒りの矛先は虐待をする親に向かった。しかし、相談相手が身近にいない母親の孤独や児相職員らの苦悩など現場の課題を知るにつれ、怒りは虐待を放置し続ける行政に向かった。
子育てに悩み、パニックに陥る母親から、しばしば相談を受ける。「時には、子どもをベッドに置き、そっと離れてみて。一人で子育てせず、いつでも相談できる相手をもってほしい」。そう繰り返している。
「子どもが好き」という熱意で、虐待の現場に立ち続けて20年近く。そこには、親の精神疾患、子どもの発達障害など、根の深い問題が横たわる。「人の苦悩や、責任の重さを受け止めて現場に立ち続けたい」。そう思っている。【望月佑香】
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最終更新:7月7日16時0分
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