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【暮らし】

女性の登用進んだが… 男女共同参画社会基本法10年 橋本ヒロ子さんに聞く

2009年7月16日

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 政治や企業、家庭などあらゆる場面で、女性も男性も平等に権利と責任を分かち合うことを規定した男女共同参画社会基本法が、六月で施行十年を迎えた。十文字学園女子大社会情報学部教授の橋本ヒロ子さんに十年の歩みと課題などについて聞いた。 (野村由美子)

 −基本法は社会にどんな影響を与えたか。

 男性も女性も家庭と仕事が両方できるようにという内容が法律に書かれたのは初めて。女性政策担当部局が各自治体に整備され、男女平等を進めるための条例制定が進み、千葉県以外の全都道府県を初め、四分の一に近い市区町村で作られている。六割近い自治体で基本計画も策定された。多くの自治体で女性センターが作られ、地域の女性団体も力を付けてきた。直接的ではないがDV防止法(二〇〇一年施行)制定の追い風になった。

 男女間格差解消のため、一方に積極的に参画の機会を提供する「積極的改善措置」が書かれたのも大きい。都道府県職員の管理職を見ても、法施行時に3・9%だった女性割合が昨年度は5・4%となるなど、公務員だけでなく企業など多くの分野で女性の登用が進んだのは確かです。

 −十年で見えてきた課題は何か。

 一方で国際的には、男女間格差を示すジェンダーギャップ指数で日本の順位が年々落ちている(昨年百三十カ国中九十八位)。女性の参画を示すジェンダーエンパワーメント指数でも同じ(百八カ国中五十八位)。格差がある以上、積極的改善措置はもっと進めていかなくてはいけない。世界各国で政策決定への女性の参画が進んでいるのは、クオータ(割り当て)制を取り入れているから。女性の視点で政策を見ることで、環境や教育などでより多様な施策が打ち出せる。

 −現状は男女共同参画社会になっているか。

 理念に反する状態は多い。男性は長時間労働が減らない。女性は同様の激しい働き方か、低賃金パート。父親が家事、育児をする時間がなく(グラフ)、母親に任せっきりにしてきたことが、虐待や子どもの非行につながっている面は大きいと思う。自殺者の年間三万人超は続き、DVで「命の危険を感じた」女性が13%を超えた。エイズウイルスなど性感染症増加、デートDV被害増などは深刻です。

 −女性の社会進出が、非婚や少子化の問題を呼ぶと言われることもあるが。

 まったく違います。女性が結婚を嫌がるのは子育てや家事、介護の全責任を負う状態がまだまだ続いており、女性にだけ負担を強いていると感じているから。男性も女性も、仕事も家庭も協力して楽しめるのであれば、女性は進んで結婚するし、子どもを産むはず。男女共同参画社会はシングルを増やす社会では決してなく、みな家族を持って柔軟に生きようという社会。安心して休めるなら産みたい女性は多い。非正規職員だと安心して産むこともできない。

 −私たちにできることは。

 差別や不平等を特に意識していなくとも、家庭や職場で何か不安を感じていませんか。「食べさせてやってる」「子育ては母親の責任」と言われても言い返せない、正規職員になれなくても「仕方ない」と思っていませんか。「女だから」我慢したりすることがあっていいのだろうかと一度考えてほしい。

 女の子に生まれても男の子に生まれても多くの可能性の中で豊かな人生が送れるように、男だからこう生きなきゃ、女だから…ではないと思う。来年度中に施策方針を決める国の第三次行動計画が策定され、意見募集もされるので、一人一人が関心を持って意見を出していくのも大切です。

<はしもと・ひろこ> 1946年生まれ。国連アジア太平洋経済社会委員会開発と女性課担当官などを経て、96年から同大勤務。2000年国連女性会議の日本政府代表団顧問。男女共同参画社会基本法制定時はNGOから政府に働き掛けた。都道府県で初めて制定された埼玉県の同条例づくりにかかわった。

<男女共同参画社会基本法> 1999年6月23日施行。男女共同参画社会を「男女が社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的、および文化的利益を享受することができ、かつ共に責任を担うべき社会」と定義。男女が性別による差別的な取り扱いを受けないなど男女の人権の尊重や家庭とそれ以外の活動の両立などを基本理念に定めている。

 

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