在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の資金や中央本部(東京都千代田区)の土地・建物をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた元公安調査庁長官、緒方重威(しげたけ)被告(75)に対し、東京地裁は16日、懲役2年10月、執行猶予5年(求刑・懲役5年)の判決を言い渡した。林正彦裁判長は緒方元長官の無罪主張を退け「公安庁長官や検事長の要職を務めたからこそ得られた周囲の信頼を裏切り、自らの利益を追求した点は厳しい非難を免れない」と述べた。
一方で「詐取した不動産を転売して利益を得るような事案ではなく、被害金の大半を返還している」と執行猶予を付けた。共謀したとされ、同じく無罪主張していた元不動産会社社長、満井忠男被告(75)には懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)を言い渡した。
公判で緒方元長官側は「総連と満井被告の間に現金授受があったことは知らなかった。登記後すぐに資金調達が実現できると信じており、土地・建物をだまし取る意思もなかった」と主張した。
判決は「元長官らは総連から現金の準備ができたと連絡があった当日に、別の地上げ案件で多額の現金を支払う契約書に署名していることなどから現金詐欺の共謀はあった。出資を断ったとする投資家の証言も信用でき、不動産詐欺の共謀も認められる」と認定。「捜査段階の自白調書は、どうかつや脅迫で無理やり作られた」との主張は「自発的に選択したことは明らか」と退けた。
動機について「現金詐欺は別の地上げに必要な資金を得るため。不動産詐欺は資金調達への努力を強調して詐取金の返還を一部でも免れるため」と指摘し「競売を回避したい総連につけ込み卑劣」と述べた。
緒方元長官は60年に検事任官。93年7月から2年間、公安調査庁長官を務めた。その後、仙台、広島両高検の検事長を歴任して97年に退官し、弁護士登録した。緒方元長官らと共謀したとされた経営コンサルタント(44)は懲役2年、執行猶予4年が確定している。総連が支払った現金のうち、緒方元長官が受け取った全額の1億円を含め計3億9400万円が返還された。【安高晋】
毎日新聞 2009年7月16日 10時30分(最終更新 7月16日 11時38分)