驚きの組み合わせである。国内の食品最大手キリンホールディングスと2位のサントリーホールディングスが、経営統合へ向けて交渉していることが分かった。実現すれば、世界でも最大級の酒類・飲料メーカーの誕生となり、業界再編などの動きを加速させそうだ。
2008年12月期の両社の連結売上高は、合計で約3兆8200億円。ともに純利益が過去最高となった。統合については、今年に入って双方が検討のための専門チームを設けて水面下で調整を進めてきた。持ち株会社同士の合併を含めて統合の形態を詰め、早期の合意を目指すという。
国内でのビール類のシェアはキリンが2位、サントリーが3位だが、統合になればシェアは約5割を占め、アサヒビールを抜いて圧倒的な首位に立つ。清涼飲料でも1位のコカ・コーラグループを上回る。
両社は単独で生き残れる力を持つ「勝ち組」だ。販売競争で激しくしのぎを削ってきた関係でもある。にもかかわらず経営統合へと動いた背景には、少子高齢化の進行で縮小が避けられない国内市場に対する危機感の高まりが挙げられよう。
将来を見据えると、成長が見込まれる新興国など世界市場に打って出る必要がある。そのためには、欧米系の巨大食品メーカーに対抗できる規模の拡大と効率性が求められる。統合によって国内での収益基盤を一層強め、世界市場で企業の合併・買収(M&A)など攻勢をかけて世界の「勝ち組」を目指そうというわけだ。
国内市場に甘んじるのではなく、2強が手を組んで果敢に世界市場の開拓に挑もうとする姿勢を積極的に受け止めたい。世界を舞台に大胆な経営戦略を見たいものだ。
ただ、欧米企業との収益力の差は大きく、統合までにクリアすべき課題も多い。その一つが企業風土の違いだ。上場企業で堅実なイメージのキリンに対し、非上場の同族企業のサントリーは創業以来の「やってみなはれ」精神を受け継ぐなど正反対だ。どう融合を図るのか。さらには、ビール類での高い国内シェアが独占禁止法に抵触しないかといった問題もある。
難題ばかりだが、今回の統合構想は食品業界に刺激を与えるとともに、日本経済の活性化にもつながる可能性を持つ。今後の交渉に当たっては、互いの相違点を踏まえた上で相乗効果を高めるよう知恵を出し合い軌道に乗せてほしい。
4月から導入の新基準で実施されている介護保険の要介護認定で、「非該当」(自立)と判定された申請者が4〜5月時点で5・0%と、前年同時期(2・4%)より倍増したことが厚生労働省の調査で分かった。
非該当は、申請者の心身状態や生活能力からみて介護サービスは必要ないという判定だ。新基準は介護認定が軽く判定される恐れがあるとして介護関係者や家族らから批判が相次ぎ、厚労省が新基準の影響を検証する検討会を設けて調べていた。
要介護認定では、自治体の調査員が申請者を訪問し調査項目をチェック。コンピューターによる1次判定の後、主治医の意見などを参考に自治体の認定審査会が最終的に判定する。
新基準では82あった調査項目を74に削減し、調査方法も変更された。実際に介護が必要でも行われていない場合は「介助されていない」となるケースがあり、個別の事情は特記事項として記入することになった。
「介助されていない」とすれば、コンピューター判定では「介護にかかる時間が0分」とみなされ要介護度は軽くなる。実施前に行われたサンプル調査では63%が同じ要介護度だったが、20%は軽く判定された。要介護度が下がれば介護保険で利用できるサービスが減ってしまう。利用者や家族にとっては深刻な問題である。
現在の利用者が更新認定を受けて介護度が下がった場合、これまで通りのサービスが最長2年間受けられる経過措置が急きょ設けられたが、新たに申請する人には新基準が適用される。
新基準導入は調査員や地域による認定結果のばらつき防止が目的と厚労省は説明している。だが、必要な介護サービスが後退しては元も子もない。十分な検証が必要だ。
(2009年7月15日掲載)