日本は右傾化しているのか、しているとすれば誰が進めているのか 11
(※この連載は、全12回の予定です)

11 右傾化を進めるのは「サヨク」と極右の抗争プロセスである


長くなったが、やっと結論部分である。

日本の右傾化は、連載の「5」でも述べたように、「戦後社会」を擁護する「ウヨク」または「サヨク」が中心的な支持層である。特に、メディア上で流される言説はこれに沿うものである。そして、日本国家もまた、この立場である。だが、そもそも保守派の「ウヨク」は、極右をも含む右派勢力の一部であり、日本国家の二つの性格からも明らかなように、この「ウヨク」的な立場は、復古的な極右とも親和的である。

まとめよう。日本国家は、過去清算抜きの大日本帝国の継承者である。その土台の上で、「ウヨク」または「サヨク」は、「平和国家」日本という仮面を、仮面と意識せずに、掲げているわけである。そしてのこの、「戦後レジーム」、「平和国家」日本を擁護する人々は、極右勢力と距離を置くか対抗しようとする。ところがその極右勢力は、まさに日本国家の土台の価値観と親和的である。ところが日本国家の建前は「平和国家」日本である。

このメビウスの輪のような循環における、「ウヨク」または「サヨク」と極右勢力の抗争のプロセスを通じて、従来はこの土台自体に批判的だった市民派や左派勢力、従来は政治的な問題に無関心だった大衆の一定層が、組み込まれていくことになる。

「ウヨク」または「サヨク」は、極右勢力との対抗という構図により、市民派や左派勢力を組み込むことができ、極右勢力は、マスコミが「サヨク」に占領されていることを強調して、マスコミへの侮蔑と敵意を持っている若年層を取り込むことができる。

また、「ウヨク」または「サヨク」対極右勢力、という構図とはズレるが、「戦後社会」の擁護あるいは(それとは逆の)「戦後の既得権の打破」といった主張は、「ウヨク」または「サヨク」と極右勢力の対抗構図を横断しながら、大衆を政治的領域に巻き込んでいくことになる。

ここで重要なのは、連載の「6」の冒頭でも書いたように、自分たちが右傾化の推進者であるなどとは、恐らく誰も露ほども考えていない、ということである。確かに「ウヨク」または「サヨク」は、日本の右傾化を支持している中心的な層ではある。だが、正確に言えば、彼らが主体的に右傾化を進めているということではない。そうではなくて、この抗争プロセスを通して、従来の批判勢力が却って促進力になり、大衆的な基盤が広がる形で、右傾化は進行するのである。

だから、この連載の、「日本は右傾化しているのか、しているとすれば誰が進めているのか」という問いに対する答えとしては、「右傾化はしているし、今後ますます進むだろうが、特定の主体が進めているわけではない」ということになるだろう。右傾化が進んでいるのは、特定の主体の意図ではなく、むしろ抗争プロセスを通して、である。抗争が活発化しているがゆえに、従来は外にいた多くの人間を、上記のメビウスの輪のような構造に巻き込むことができ、それぞれからこの構造へのより強い帰属意識・参加意識を調達することができる

そして、周辺諸国からの「日本は右傾化している」という指摘に対しては、「ウヨク」も「サヨク」も極右勢力も、一致団結して、そうした認識は「反日感情」の然らしめるもの、とし、反発を強めることになるだろう。日本社会の建前は「ウヨク」または「サヨク」的であり、「ウヨク」または「サヨク」的な人々が社会の実権を握っているという点については、賛否は別にして、すべての主体は認識が一致しているからである。したがって、日本国内の支配的な認識と、周辺諸国の警戒のズレは、ますます大きくなっていくだろう。

私は連載の「2」で、「日本においては、本音では「大東亜戦争」肯定史観を持ち、戦前の軍国主義勢力とも関わりの深いような右派勢力が非常に強大であり、安部政権崩壊後も、福田政権下でも、麻生政権下でも、こうした勢力が基本的に政治・社会を牛耳っている」という認識(連載の「1」の④)が、右派勢力の中の復古的な人々の力についての過大評価であり過小評価でもある、と述べたが、それは、このような理由である。過大評価である理由は既に述べたが、「サヨク」は「平和国家」たる戦後日本国家を擁護することを通じて、客観的には過去清算抜きの大日本帝国の継承者をも擁護することになり、復古的な人々とも地続きになってしまうのだから、「敵」をあまりにも限定しており、過小評価であった、ともいえる。

静態的に言えば、「戦後社会」の擁護というイデオロギーが中軸に置かれることで、右派勢力が従来の左派の大部分を包含し、社会的基盤を拡大したと言える。したがって、今後、日本の右傾化はよりスムーズに進む、と思われる。


(つづく)

by kollwitz2000 | 2009-07-15 00:00 | 日本社会
< 前のページ 次のページ >