都道府県が獣医師資格を持つ職員の確保に苦慮している。獣医師法に基づく就業分野別の統計によると、獣医師の総数は82年の約2万6000人から06年約3万6000人に増えた。しかし、内訳では、都道府県のほか国や政令市などの公務員が約1万人から約9100人に、家畜診療専門の産業動物臨床が約5400人から約4200人に減少。一方で、小動物臨床は約4000人から約1万3000人と、3倍以上に増えている。
BSE(牛海綿状脳症)と鳥インフルエンザに代表される人獣共通感染症対策、食品への異物混入で重要性が再認識された食品衛生監視など公務員獣医師の業務は、増加の一途をたどる。ところが、公務員獣医師の給与は同じ6年制大学を卒業した医師職の公務員より低く、毎日新聞の調査では最大で平均月給が50万円以上少なかった。
また、調査からは地域格差も見える。東京都の昨年度採用試験の倍率は約10倍。四国4県は「最近10年間の採用は定員割れが多かった」と答えた。
大槻公一・京都産業大教授(獣医微生物学)は「学生が自治体への就職を避ける理由は、畜産部門は農村勤務への敬遠、公衆衛生部門では一緒に働く医師との大きな待遇の格差がある」と指摘する。
獣医師職員の平均年齢が45歳を超える自治体が15府県あり、高齢化も進む。「団塊の世代」の大量退職時期を迎え、人手不足はさらに深刻になるだろう。
獣医師は「動物の医師」である一方、人間の健康と暮らしの安全に極めて深くかかわっている。獣医師が社会の「安心を守る番人」としての役目を果たすには、社会がその職責の重要性を正確に認識し、そのうえで有効な人材確保の方策を取ることが必要だ。【奥野敦史】
毎日新聞 2009年7月15日 東京朝刊