世界的ファッションデザイナー、三宅一生さん(71)が、広島での被爆体験を初めて公にしたうえで、米オバマ大統領に8月6日の広島訪問を求めるメッセージを米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿、14日掲載された。オバマ大統領が核兵器廃絶への決意を語ったプラハ演説に触発されたためで、同内容の書簡をオバマ大統領にも送ったという。
同紙電子版によると、三宅さんは7歳で被爆し、「赤い閃光(せんこう)と黒い雲、逃げまどう人々の姿が今もまぶたに焼き付いており、それから3年を待たずに放射線の影響で母を亡くした」と明かした。しかし「原爆を生き延びたデザイナー」というレッテルが張られることを恐れ、広島についての質問も避けてきたという。
また、北朝鮮の核問題や、核技術が拡散している厳しい情勢にも触れ、「ささやかでも平和への希望を見いだすため、世界中の人々がオバマ大統領に続いて声を上げなければならない」と呼びかけた。
そのうえで、日系アメリカ人のイサム・ノグチ氏がデザインした広島市の平和大橋を、オバマ大統領が渡る光景は、「核兵器の脅威のない世界を創造する、現実的で象徴的な一歩になる」と結んだ。
三宅さんはフランスで服作りを学び、71年に米国ニューヨークで初めてのショーを開いた。三宅デザイン事務所(東京都)によると、これまで三宅さんは被爆に関する取材は一切受けず、今回の寄稿についても「気持ちは文面に言い尽くされている」としてコメントしなかった。近年では戦後50年の95年、広島市の平和式典にひっそりと参列。毎年、原爆投下の時間に合わせて黙とうをささげてきたという。【松本博子】
毎日新聞 2009年7月15日 19時49分