昼夜で玉三郎と海老蔵による泉鏡花の2作品が上演されている。
昼が「海神別荘」(戌井市郎・玉三郎演出)。海の公子(海老蔵)に陸の美女(玉三郎)が嫁ぐ。
生け贄(にえ)としてささげられ、恐怖心を感じていた美女が、公子の気高さに打たれ、世俗的欲望を捨てるまでを、流麗なセリフにより描く。玉三郎の柔と海老蔵の剛が見もの。天野喜孝の美術とハープが幻想美を高める。猿弥、門之助、笑三郎らが周囲を固める。
夜が「天守物語」(戌井・玉三郎演出)。富姫(玉三郎)は白鷺城の天守に住む魔物。前半では富姫と妹分の亀姫(勘太郎)のやりとり、後半では主命により天守を検分にきた図書之助(海老蔵)と富姫の恋が主題となる。
玉三郎が前半で伝法な美しさを出し、後半で図書之助への心の揺らぎを見せる。海老蔵が涼しげな若侍ぶり。門之助の舌長姥、獅童の朱の盤坊が軽妙かつ不気味。吉弥の奧女中がいい。我当の桃六。
昼の最初が「五重塔」(幸田露伴原作、宇野信夫脚本、石川耕士演出)。芸術家気質で実直な十兵衛(勘太郎)と親分肌で気持ちのいい源太(獅童)。五重塔の建設を巡る2人の大工の葛藤(かっとう)がしっかりと描かれた。市蔵の朗円、春猿のお浪。
夜の最初が「夏祭浪花(なにわ)鑑(かがみ)」。海老蔵の団七は殺し場に錦絵のような美しさとすごみを出した。市蔵の義平次に憎々しさがよく出た。獅童の徳兵衛、猿弥の三婦、勘太郎のお辰と周囲もそろう。27日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年7月15日 東京夕刊