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第1編   
第1部  少子社会を考える−子どもを産み育てることに「夢」を持てる社会を−
第2章  自立した個人の生き方を尊重し,お互いを支え合える家族
第2節  結婚,妊娠・出産
4  結婚後の姓


表2-26 夫婦の姓に関する経過

表2-27 自分の姓(苗字)を結婚生活で犠牲にしてもよいと考える割合

図2-28 職場での旧姓使用について

表2-29 民法の一部を改正する法律案要綱(平成8年2月26日 法制審議会総会決定)-抄-

図2-30 選択的夫婦別氏制度の導入について

図2-31 国際結婚率の推移




4-1  夫婦同姓の歴史は意外に浅い。

 夫婦同姓は日本の伝統であると思われがちであるが,その歴史は意外に浅い。武士階級では夫婦別姓であったし,明治の初期に平民が苗字を持つことを許されて以降も,1876(明治9)年に「婦女人ニ嫁スルモ仍ホ所生ノ氏ヲ用フヘキ事」という太政官指令が出されるなど夫婦は別姓であった。

 夫婦同姓が強制されることとなったのは,1898(明治31)年に明治民法が施行され,「妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」(788条)「戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス」(746条)と定められて以降の100年足らずのことである。

 戦後改正された民法においては,「夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する」(750条)と規定され,夫婦同姓制度そのものは維持され,現在に至っている。


4-2  姓の選択は現実には,女性の圧倒的多数が夫の姓を名乗っている。

 現行の民法においては,先に述べたとおり,夫婦は,婚姻の際に,夫又は妻のどちらの姓を称してもよいこととされ,形式的には「夫の姓と妻の姓」の選択は対等の関係にあるが,現実には,女性が夫の姓を名乗る割合は,年次的に微減してはいるが,1996(平成8)年で97.3%と圧倒的多数を占めている。

 このような現実の下で,半ば「結婚すれば女性が改姓する」ことが当たり前と受け止められているためか,20代・30代を中心にした調査によれば,結婚生活によって「自分の姓」を犠牲にしてもよいと考えている未婚男性は約2割にとどまっているのに対し,未婚女性の約7割は犠牲にしてもよい,と考えており,男女の意識に大きな開きが見られる。


4-3  選択的夫婦別姓の導入については,若い世代では容認派が多くなっている。

 婚姻の際に,同姓とするか,各自の婚姻前の姓を名乗るかどうかの選択の自由を認めようとするいわゆる選択的夫婦別姓制度の導入を巡っては,法務大臣の諮問機関である法制審議会において審議され,1996(平成8)年2月に答申された「民法の一部を改正する法律案要綱」に盛り込まれたところであるが,国民の意見が大きく分かれていることから,国会に提出されるに至っていない。

 1996年に行われた総理府の世論調査によれば,選択的夫婦別姓制度の導入について,「婚姻をする以上,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はない」と答えた者(以下「改正不要派」という。)の割合が39.8%,「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた者(以下「改正容認派」という。)の割合が32.5%,「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが,婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては,かまわない」と答えた者の割合が22.5%となっており,改正不要派の割合が,改正容認派の割合を上回っている。

 しかし,これを年代別で見ると,男性・女性とも,50歳未満の年代では,改正容認派が改正不要派を上回っており,特に30歳代の女性では,改正不要派14.8%,改正容認派45.4%と,改正容認派が改正不要派を大きく上回っている。他方,60歳以上の男性では,改正不要派が71.3%,改正容認派が15.1%と,改正不要派が改正容認派を大きく上回っている。

 改正容認派のうち,希望すれば夫婦がそれぞれの婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律改正された場合,別姓を名乗ることを希望する者の割合は16.3%,希望しない者の割合は51.5%となっており,容認派の多くは,自らが別姓を望んでいるというよりは,多様な生き方,価値観を認めるという考えに立っているものと考えられる。

 このように選択的夫婦別姓制度の導入を巡っては,年代別に意識が大きく異なっており,更なる国民的な議論が求められるが,その際には,これから結婚を控えた若い年代層で改正容認派が多くなっていることを十分念頭に置く必要があろう。


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