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クラスター爆弾:禁止条約批准 日本、G8で2番目 「全面廃棄」へ課題

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR 外交>

 ◇求められる情報公開

 日本政府が14日、「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」の批准書を米ニューヨークの国連本部に寄託した。世界で14番目、主要国(G8)で2番目の批准国となり、批准の「先頭集団」に入った。日本は条約の検討段階で消極的だったが、早い批准で積極姿勢を世界に印象付けることに成功した。今後は被害者支援などで国際世論をリードする考えだ。ただ、条約に加盟しない米軍との関係はあいまいなままで、情報公開や透明性の確保など課題は多く残されている。【鵜塚健、ニューヨーク小倉孝保】

 「罪のない市民を守るため大切な条約だ」。日本の高須幸雄・国連大使は14日、国連本部で法務局条約課のアランチャ・イノハルオヤルビデ課長代理に批准書を手渡した。大使は「批准していない国に働きかけ、できるだけ早期に条約を発効させたい。世界にはクラスター禁止の潮流が生まれている」と語る。

 オスロ条約について外務省は「可能な限り早い批准」(幹部)を目指した。解散・総選挙がとりざたされていたうえ、自民党の一部に条約への疑念がくすぶり続けていたからだ。

 対人地雷禁止条約の際、日本は97年12月に署名したが、与党内で異論が出て、批准は98年9月になり、45カ国目と出遅れた。条約発効の要件は40カ国の批准だった。

 オスロ条約では積極的な姿勢を見せるため、発効要件「30カ国」以内の批准を目指し、14番目という「スピード批准」を実現した。

 ただ、課題はなお残されている。

 オスロ条約では、米国など条約非加盟国への協力が可能と規定している。批准案の国会審議では在日米軍から依頼された場合、自衛隊が米軍所有の同爆弾を運搬できる点に批判が集中した。

 外務省関係者によると、対人地雷禁止条約の検討段階では、故小渕恵三外相の指揮で地雷に関する米軍との協力の余地を排除した。この点に批判があったため、オスロ条約の議論では、対米協力の余地を残すことが前提になったという。

 英国は域内から米国のクラスター爆弾を撤去するよう求めることも検討中との情報もあり、「全面廃棄」に向けた重い宿題が残る。

 さらに、透明性の確保も求められる。国会審議では、クラスター爆弾の保有数を繰り返し問われたが、政府は一切公表しなかった。ドイツは保有数を公表し、廃棄作業を始めている。廃棄企業はコストまで公表した。日本の防衛省が、条約発効前の情報公開は「安全保障上問題がある」としたのと対照的だ。

 ◇平和外交に新たな展開--対米追従一辺倒に一石

 米国が難色を示し続けてきた「クラスター爆弾禁止条約」を日本が早い段階で積極的に批准したことは「対米追従」と批判されがちな日本の「平和外交」に新たな展開をもたらす契機となりうる。

 米露中などを除くノルウェーなど有志国や非政府組織(NGO)が主導する軍縮交渉「オスロ・プロセス」が進めた禁止条約作りを巡っては、日本は最初に態度を留保するなど「後ろ向き」と批判されてきた。煮え切らない態度の最大の原因は、同爆弾を大量に使ってきた米国が禁止条約に反対し、プロセス参加国に個別に圧力をかけたからだ。

 日本などの主張によって、条約に参加しない国である米国がクラスター爆弾を使用する場合の共同作戦を認める条項が入り、日本は条約に賛成した。米国の顔色をうかがったとも言えるが、禁止条約で同爆弾を使いづらくなる場面が想定されるのは日本ではなく米国だ。特にクラスター爆弾の使用を是としたブッシュ政権に対し結果として異議を唱えた意味は小さくない。

 クラスター爆弾の非人道性は明白で、安全保障の確保と人道の間で日本は揺れ続け、最後は人道に軸足を置いた。外国勢力による侵略を想定した「時代遅れ」(NGOの専門家)の兵器を保持し続けるよりも、廃棄して被害を出さないことを重視した。【斎藤義彦】

 ◇政府、被害者支援本格化--カンボジアとラオス重点に

 オスロ条約批准を受け、政府は、東南アジアで特に被害が深刻なカンボジアとラオスを重点に、クラスター爆弾による被害者支援を本格化させる方針だ。農村部や山間部の貧困地域を中心にし、被害者への医療や教育の提供だけでなく、地域全体の支援につなげていく考えだ。

 外務省によると、日本は98年以降、アジアや中東などの38カ国に対し、約350億円に上る不発弾対策を実施。各国政府や国際機関、現地NGOなどを通じ、▽不発弾除去機の導入▽義足、義手の製作やリハビリ施設運営などの被害者支援▽地雷被害の予防教育--などを進めてきた。

 政府はオスロ条約の批准と並び、今年が対人地雷禁止条約の発効(99年)から10年に当たるため、不発弾対策の見直しを検討。外務省は6月末から7月初旬にかけ、NGO「地雷廃絶日本キャンペーン」(JCBL)などと合同でラオス、カンボジアで現地調査した。

 両国は内戦や周辺国との紛争で、地雷・クラスター爆弾の不発弾が数多く残る。しかし、同様の被害国であるタイやベトナムに比べて経済発展が遅れ、不発弾被害者を含む障害者支援が後回しにされているのが現状という。政府は、被害者が利用する医療・リハビリ施設や職業訓練施設への支援を中心に、被害者の社会復帰・参加を進めていく計画だ。

 一方、現地では、危険を知りながら不発弾地帯で農業を営んだり、不発弾を回収、解体して売却する住民も後を絶たない。「不発弾問題と貧困問題は表裏一体」(外務省幹部)として、地域全体の支援が不可欠と分析。病院や道路など地域のインフラ整備を通じ、被害者支援だけでなく新規被害の予防につなげることも検討している。

毎日新聞 2009年7月15日 東京朝刊

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