水俣病未認定患者の救済を目的とした特別措置法案は8日にも参議院本会議で可決され、成立する。95年に次ぐ「第2の政治決着」を、水俣病問題にかかわってきたさまざまな立場の人がどう見つめているのか。インタビューを通じて「政治決着」の意味を問う。1回目は熊本学園大の富樫貞夫教授に聞く。
--与党と民主党が合意した救済法案をどう見ますか。
◆未認定患者救済とチッソ分社化を抱き合わせて問題解決を図る仕組みですが、与党が救済範囲などについて民主党の要求をほぼ受け入れたことで、逆に分社化がいかに大きな問題だったかを見せつけた。これを認めないとチッソが一時金の支払いに応じない姿勢を見せていたからでしょうが、大きな問題があります。
--分社化の問題とは。
◆最終的に水俣病の原因企業チッソは消滅します。一方で、地域全体での健康調査を行っていないから、本当は被害者がどれだけいるか把握できていません。救済案から漏れる人だけでなく、偏見を恐れて言い出せない潜在患者もかなりいる。分社化は当面「凍結」されてはいるが、新たな救済の必要が出てきた場合、消滅後はチッソが責任を果たさないことになります。
--最終的に削除された「地域指定解除」をどのように考えていましたか。
◆環境省には「何とか早く片づけてしまいたい」という希望があったのだろうと思います。
--救済対象は従来の感覚障害に加え、視野狭さくなどにも広げられました。
◆04年の関西訴訟最高裁判決でも指摘されたことであり、政治決着で救済対象を広げるのは当然です。ただ診断に関して法案は「民間診断書も活用する」と、どのようにでも解釈できる書き方になっている。胎児性患者がどれだけ救済されるかも不明です。認定基準自体に手を入れるべきなんです。少なくとも認定基準が定められた77年に比べると、医学的知見は相当進んでいる。改めるべき点は改める必要があります。
--95年の政治決着と比較して、どう感じますか。
◆95年は被害の全容もつかんでいないのに「全面的かつ最終的な解決」というスローガンだけを掲げました。チッソに「あの時(95年に)、『最後』だと言ったのに」とへ理屈を言い続けるきっかけを作ってしまった。そして今回は、本来ならば1人でも被害者がいる限り責任を果たすべきチッソを免責してしまう。この点で95年よりもはるかに後退しており、厳しい評価をせざるを得ません。将来に大きな禍根を残しました。【聞き手・遠山和宏】(つづく)
毎日新聞 2009年7月8日 地方版