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社長が訊く『リズム天国ゴールド』
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開発者篇つんく♂さん篇
1.ダメもとでアプローチ
2.リズム感は鍛えられる
3.「ノリ」ってなんだ?
4.ダンスレッスンを経て
5.気持ちのいいアクセント
6.幸運な出会い
1.ダメもとでアプローチ
岩田
つんく♂さん、はじめまして。
今日は、ご足労いただいてありがとうございます。
任天堂は、社長が製品の開発スタッフにインタビューをするという、
「社長が訊く」というちょっと変わった企画を展開しているんですが、
『リズム天国ゴールド』の開発スタッフから話を訊いてみて、
やはり、つんく♂さんから直接お話を訊かないと、
開発の背景は本当には見えてこないのではないかと感じ、
無理をお願いして、お付き合いいただくことになりました。
本日はよろしくお願いします。
つんく
こちらこそ、よろしくお願いします。
岩田
今回、つんく♂さんと任天堂が
いっしょにゲームをつくるという
不思議なご縁ができたわけですが、
まず、そもそものはじまりのところから
お聞かせいただけないでしょうか。
つんく
わかりました。
ま、ぼくも、けっこうゲームが好きで、
いろんなゲームをやらせていただいたんです。
いわゆる「音ゲー」というものが流行りましたよね。
音楽に合わせて、ボタンを押していくという。
ぼくもいくつかやってみたんですけど、
音楽をやっている立場からすると、
どうもフラストレーションを感じるんです。
「ここがボタンを押すところ?」という感じで。
つまり、あれは、リズムにのるというよりも、
けっきょく、目押しをしてるんですよね。
岩田
そうですね。
だから、いわゆる「音ゲー」というのは
目で見て、譜面に合わせて、
指定されたところでボタンを押すだけであって、
リズムではないんじゃないかと、
感じられたわけですね。
つんく
そうなんですよ。音、関係ないんですよね。
そんなふうに、当時は感じてまして、
でも、まぁ、そんなことをね、いちいち、
ぼくらが言ってもしゃあないというか、
こういうもんなんやなということで
そのときは終わってたんです。
で、数年前になりますけど、任天堂さんから
『ドンキーコンガ』というゲームが出て、
ぼくの楽曲をたくさん使っていただいたこともあって
サンプルを送っていただいたんですね。
それで、家でそれをやってみたときに、
「あれ? ここはこうじゃないんじゃないかな」と。
で、その夜に、最初の企画書みたいなものを
バーッと書きはじめたんです。
これはなんか伝えなあかん、という気がして。
ゲームをつくってる人たちになにか伝えないと、
ぼくにとっても、世間にとっても、
「音ゲー」というものが
曲がっていくような気がしたんです。
で、書き上げたんですけど、
それをどうするかというのは
はっきりとは決めてなかったんです。
うちの社員たちに話したんですけど、
「いや、ゲームつくるなんて無理ですよ」
「何曲つくらなきゃいけないと思ってるんですか」
みたいな反応ばっかりで、軽く説教されて(笑)。
岩田
(笑)
つんく
当時、いくつか、つき合いのある
ソフトメーカーさんはあったんです。
社員は、とりあえず、そこへ相談してみる、
ということを考えていたみたいなんですけど、
ぼくとしては、もう、
「ダメもとでいいから、任天堂に送ってくれ」と。
それは、なんていうかな、
ソフトをつくる会社じゃなくて、
「遊びそのもの」をつくる会社じゃないと
ダメだと思ったんです。
それで企画書を任天堂さんに送って、
それがそもそものきっかけですね。
岩田
私はその話を聞いて、
つんく♂さんの考えをもっと知りたい、
と思ったんですね。
で、やりとりをするなかで、あらためて
つんく♂さんからメッセージをいただいて
「ああ、これだけはっきりと
 やりたいことがおありなんだな」と
はじめて理解できたんです。
やっぱり、私たちにも最初はわからなかったんですよ。
音楽をされている方のなかで
ゲームをつくってみたいという人は、
まあ、少なからずいらっしゃるわけで、
「自分のつくってる音楽の出口が増えればいい」
と思ってらっしゃる方から、
「とにかくゲームをつくりたい」という人まで、
ダイナミックレンジがとっても広いんです。
そんななかで、つんく♂さんは、
「日本人のリズム感って、やりようによっては
 もっともっとよくできる」という
ある意味、ダイナミックレンジを
振り切ったようなところから考えておられて、
その視点と、真剣さが、私にとっては驚きでした。
それで、どうなるのかは、わからないけれど、
とにかく真剣に向き合って話してみようと。
つんく
はい、そうですね。
岩田
つんく♂さんは、ダメもとでアプローチしたと
おっしゃってましたけど、
思いのほか、扉は簡単に開いたな
という印象だったんでしょうか。
つんく
そうですね。
話をちゃんと聞いてくださったのが、
いい意味で予想外だったというか、
たんに「こういうゲームはどうですか」みたいな
話にならないのがありがたかったです。
当時の「音ゲー」に対するフラストレーションと、
リズムに対するぼくの思いというのを
きちんと聞いていただけましたから。
あの、いろんなゲーム会社さんから、
「いっしょにゲームつくりませんか?」っていう
オファーはたくさんくるんですよ。
で、いちばんよくあるパターンは、
「バーチャルな世界で、
 プレイヤーがプロデューサーになって
 女の子のアイドルたちを育てていきます」
みたいな企画で、それはまぁ、
モーニング娘。のヒットなんかがあるから、
わからないわけじゃないんですけど、
なんとなく、乗り気じゃなくて、
いくつも断ってたんですよ。
岩田
どうしてやる気になれなかったんでしょうね。
つんく
ま、それはべつに、
ぼくがいなくてもつくれるというか。
単にぼくの名前とモーニング娘。の設定だけが
欲しいんじゃないかなと思って。
だから、たぶん、それをつくったとしても、
キャラクターだけがかわいい、みたいな
雰囲気だけのゲームになりそうで、
それはぼくがつくりたいものじゃないと思ったんです。
その点、任天堂の方たちは、最初から、
「どういうゲームをつくりたいんですか?」という
きちんとした聞き手になってくれたんで、
うれしかったですね。
岩田
ちなみに、私たちは、今回のお話をいただいて、
『メイド イン ワリオ』シリーズをつくっていた
チームの人たちに担当してもらうことに決めたのですが、
任天堂からつんく♂さんのところに
お邪魔した人たちの
第一印象ってどんな感じでした?
つんく
ええと、もっとゲーム開発者っぽいというか、
技術屋さんみたいな人が来るかと思ったんですけど
そうでもなかったというか(笑)。
あとは、いきなり契約書というか誓約書というか
そういう書類を持ち出されるわけでもなく。
岩田
ああ、「まずこれにサインしてください」
というような(笑)。
つんく
ええ、そうです。
「開発するまで口外しないでください」
みたいなことをいきなり言われるのかな
と思ってたんですけど、そういうこともなく。
ま、やっぱり、いちばんうれしいかったのは
「関西弁で話し合いができた」ということですね!
岩田
(笑)
つんく
東京の、うちの小さいオフィスで、夏の暑い日に、
「クーラー直接当たると寒いな」
「消すと暑いな」「当たると寒いな」言いながら、
関西弁でお話できたのは、よかったです。
音楽に詳しい人も何人かいらっしゃって、
突っ込んだ話ができたのもよかったな。
あ、それから、あのころ、ぼくはたまたま
『メイド イン ワリオ』にハマってたので、
その『ワリオ』のチームが動いてくださったのも
話が盛り上がるきっかけになりましたね。
岩田
逆に、うかがったうちの社員たちも、
ものすごく刺激になったみたいでしたよ。
東京から帰ってきたあとに、
つんく♂さんのお話をうかがってよかったと
──このことばをあの男たちに
使うのは抵抗がありますが──
「目をキラキラさせて」語ってましたから(笑)。
つんく
(笑)
1.ダメもとでアプローチ
2.リズム感は鍛えられる
3.「ノリ」ってなんだ?
4.ダンスレッスンを経て
5.気持ちのいいアクセント
6.幸運な出会い
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