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きょうの社説 2009年7月14日
◎8月30日衆院選へ 野党の覚悟と与党の意識を
衆院選の日程がようやく決まった。政府・与党にすれば、都議選の敗北直後という最悪
のタイミングとはいえ、もはや先送りも限界だろう。自民党内では「麻生降ろし」の動きが活発化しているが、結束を乱して右往左往すればするほど有権者の心は離れる。たとえ選挙向けに「顔」をすげ替えても政権交代の流れが変わるとは思えない。自民党は今、長きにわたって日本の政治を担当してきた政権党の矜持(きょうじ)をか なぐり捨て、支持率アップのために狂奔している。東国原英夫宮崎県知事を担ぎ出し、その人気にすがろうとする振る舞いなどは浅ましい限りだ。自民党に本当に必要なのは「野党」になる覚悟ではないのか。 与党内には「麻生首相では総選挙は戦えない」との危機感が強く漂っている。首相批判 を強める勢力は首相の退陣を求めており、今後は「麻生降ろし」の動きを抑え、解散を実行できるかが焦点になる。不人気の首相を交代させ、選挙を有利に戦いたいという気持ちは分からぬでもないが、「貧すれば鈍する」を地でいく安直な手法は、国民の目には選挙目当ての茶番にしか映らない。じたばたせずに国民の批判を真摯(しんし)に受け止め、敗北を半ば覚悟して解党的出直しを図るほかあるまい。 麻生首相は就任以来、景気対策が最優先と言い続けて解散を先送りしてきた。世界同時 不況に揺れた難しい時期に、4度の経済対策を打ち、やれるだけのことはした。解散までに重要法案のメドを立て、マニフェスト(政権公約)づくりに腰を据えて取り組んでほしい。 自民党に野党になる覚悟が足りないのと同様、民主党には「与党」になる意識が欠けて いる。マニフェストには、高速道路の無料化や農家への戸別所得補償などがあるが、財源の裏付けなしに、どうやって実現するのか。悲願の政権交代を果たしたはいいが、無理な公約に足を取られて身動きできぬ状態に追い込まれはしないか。 政権党に向けて放った批判の矢は、今度は自分たちに向かって飛んでくる。政権交代は ゴールではなく、スタートだということを改めて指摘しておきたい。
◎臓器移植法改正 関心高める努力が必要
「脳死を一般的な人の死」と位置づけ、臓器提供の年齢制限も外した改正臓器移植法(
A案)が成立し、臓器提供の道が広がることになった。解散前の慌ただしい政局のなかで国会審議は消化不良の印象も否めないが、子どもの脳死判定の在り方など積み残された課題は改正後に詰められるものもあり、参院で廃案にさせず、立法府として一つの結論を導いたことの意義は大きい。法的に臓器提供条件が大幅に緩和されたとはいえ、狙い通りに提供者(ドナー)が増え るとは限らない。改正法でも本人意思がまず尊重されることに変わりはなく、今後は提供したくなければ拒否の意思表示をしておく必要がある。啓発活動が今まで以上に問われることになり、石川、富山県でも住民の関心を高める一層の取り組みが求められよう。 A案は15歳未満の子どもからの臓器提供も可能にし、本人が生前に拒否表明していな ければ家族の同意で提供できる。A案提出者は国会審議のなかで「法的には脳死が人の死となるのは臓器提供の場合だけ」と説明しており、「脳死は人の死」が移植法の枠を超え、医療現場で独り歩きしないかチェックしていく必要がある。 審議の過程では、重い判断を迫られるドナー家族の支援など提供側の課題も浮かび上が った。法施行は公布から1年後であり、改正法の趣旨が移植治療を普及させることにある以上、そうした環境を着実に整えていかねばならない。 石川、富山県では金大附属病院や富山県立中央病院で臓器摘出が実施されたものの、例 は極めて少なく、臓器提供への関心は高いとは言い難い。石川県では今年度から移植コーディネーターを学校や各種団体の講演に派遣することを決めたが、コーディネーター育成や臓器提供への理解を求める活動をさらに充実させる必要がある。 ドナーが増えないのは、法律では割り切れぬ個々の死生観という側面も大きい。提供す る側、される側、さらには家族が脳死になった場合などに思いを至らせ、法改正を一人一人が自分のこととして受け止めるきっかけにしたい。
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