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2009.07.14

 韓国紙予測 総書記死後に権力闘争 張成沢氏と金正雲氏 

カテゴリ北朝鮮出典 読売新聞 7月14日 朝刊 
記事の概要
韓国紙、朝鮮日報は13日、金総書記の死後に、金総書記の妹の夫で党行政部長の張成沢氏(63)と、後継が有力視されている三男の正雲氏(26)との間で、権力闘争が起きる可能性が高いと伝えた。

韓国の情報機関、国家情報院が、国会に提出した資料で明らかにした。

資料では、「正雲氏の世襲は確実視される」としたものの、金総書記の死後、張氏とその支持派が権力を奪い返そうとした場合、「正雲氏支持派と対立する可能性が濃厚」と指摘している。

張氏は現在、正雲氏を後継者として後押ししているが、過去には長男の正男氏を支持していたとされる。

一方、同日釜山で講演した国家情報院傘下「国家安保戦略研究所」の南成旭(ナムソウク)所長は、金総書記が突然死亡した場合、正雲氏の後継が不透明になると指摘。その上で「軍と党が主導権を奪い合い、その連合体による集団指導体制が出来ることは避けられない」と分析した。
コメント
以前から、このホームページをお読みの方は知っておられると思うが、この分析は私が書いてきた予測とほぼ同じである。

社会主義の北朝鮮といえども儒教国家で、長男が家督を継承することが一般的なことである。金総書記の妹婿の張成沢氏は、長男の正男氏が生まれた時から金王朝の後継者として接してきたことは間違いない。

しかしその後継体制が狂った原因は2つあある。一つは金正日が掲げた先軍政治によって、軍が党と同格の新しい勢力に台頭した。そこで軍は党が支持する正男氏の後継に反対した。軍は正男氏でなけばよいと考えた。(ディニズーランド見物のためのニセ・パスポート事件は重大ではない)

2つめの原因は、昨年夏、金正日が脳梗塞で倒れ、急激に体力が衰え始めたことである。党と軍が対立を回避して、緊急に後継者を決定する必要に迫られた。そこで互いの折衷案として正雲氏が浮上した。党と軍がともに緊急の対策で「正雲氏」の神輿(みこし)を担ぐことにした。

しかし党と軍の権力闘争は終わった訳ではない。今は金正日生存によって微妙なバランスが保たれているが、その金正日総書記が死亡すればバランスが崩れ、集団的指導体制を目指しながら、権力闘争が再燃するというのが国情院の分析なのである。

そこでこの記事には触れていないが、その党と軍の権力闘争で決定的な影響力を持つのが大国・中国の意思である。党と軍が闘争を激化させると、核実験を強行した軍に対して中国は厳しい態度をとると思う。また党は中国の影響力を利用し軍に対抗する。

また金ファミリーとそれを支える保衛部は、軍よりは党を支えることを選択すると思う。保衛部は軍の反乱分子を抑え、金ファミリーを守ることが本来の使命であるからだ。

最近、北朝鮮のテレビ映像で金正日の妹の金敬姫の姿が度々登場しているが、あの映像こそ金ファミリーと保衛部の存在感を示すものと私は考えている。すでに軍は党と保衛部に包囲された。そこで軍は核実験という強硬手段に出たが、結果は逆効果で徹底的に中国を怒らせた。

しかし党と軍の権力闘争が起きても、三男正雲の後継は変わらないと思っている。粛清されるのは人民軍の最高幹部クラスで、党幹部に楯突くことのない世代の軍幹部は許される。

しかし、それで軍のトップクラスは黙って粛清されるという疑問が残る。配下の部隊に命じてクーデターをやりかねない。もちろんその時は金正日の死亡直後というタイミングが考えられる。

そのような北朝鮮動乱を韓国の国家情報院は推測し、韓国民に備えるように北朝鮮情報を韓国メディアなどにリークしている。

再度繰り返すが、北朝鮮の党と軍の権力闘争は、中国がどちらを支持するかで決まる。(私は張成沢と思う)また保衛部が軍のトップクラスをいかに早く逮捕するかでクーデター混乱の拡大防止ができるかである。

三男正雲氏の後継は変わらないと思うが、金正日なきあとの北朝鮮の支配体制はこの大激震に耐えられないと思っている。
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