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政権担当能力とは何か(上)
次期衆議院選挙で自民党は「政権担当能力」に焦点を当て、民主党との差をアピールしたいようだ。要するに経験の違いを浮き彫りにして民主党の未熟さをあぶりだす狙いである。なにせ日本は世界の議会制民主主義国家の中で唯一政権交代を経験したことのない国だから、「経験のない野党に政権を任せられるか」と言われると国民は一瞬考えてしまうところがある。93年の衆議院選挙で非自民の細川政権が誕生し、日本にも政権交代らしき事が起きた事はある。しかし細川政権は国民が選挙で選んだ訳ではない。国民が選んだ第一党は自民党であった。獲得議席数を多い順に並べると、自民党223、社会党70、新生党55、公明党51、日本新党35、民社党15、日本共産党15、新党さきがけ13、社会民主連合4、無所属30である。自民党が権力を握るためには28議席足りないだけで、日本新党やさきがけと連立を組めば容易に政権を担当することが出来た。
ところが自民党を飛び出して新生党を結成した小沢一郎氏があっという間に共産党を除く8会派をまとめ上げ、日本新党の細川護煕氏を総理に担いで権力を握った。この時自民党には28議席を確保して権力を維持する能力、すなわち政権担当能力がなかった事になる。その細川政権が崩壊したのは国民の支持を失ったからではない。細川総理が突然政権を投げ出し、同時に「小沢剛腕批判」が湧き起こって8会派が分裂したためである。
非自民政権の内部崩壊で自民党、社会党、さきがけの連立による村山政権が誕生、再び自民党が権力を握った。細川総理が政権を投げ出した理由は警察出身の自民党議員が中心となり、スキャンダルを材料に退陣を迫ったためだと言われているが、おそらく真相が明かされることはない。要するに自民党のスキャンダル攻撃を防げなかったところに非自民政権の政権担当能力の弱さがあった。
それからの野党は離合集散を繰り返し、政権を狙える体裁が整えられたのは民主党と自由党とが合併した03年である。そして07年の参議院選挙で自民党が結党以来初めて参議院第一党の座から滑り落ちた。これによって自公政権は権力の半分を失い、野党の政権獲得が現実味を帯びたのである。
そこで危機感を持つ自民党から「民主党に政権担当能力はあるか」との問いかけがなされている。先月行われた党首討論でも麻生総理は「官僚をバッシングするよりもやる気にさせなければ経営は出来ない」と民主党の政権担当能力に疑問を呈し、また新聞やテレビも「民主党の政策には具体的な財源の裏付けがない」、「安全保障政策に不安がある」など民主党の政権担当能力に疑問を呈している。
田中良紹
(ジャーナリスト)
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。
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