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網代の氷魚

2009年7月14日0時0分

 ウォール街の朝は早い。老舗(しにせ)投資銀行の友人とは行内のハドソン川を望む彼専用のダイニングルームで朝食をとりながら国際情勢を議論したものだが、いまはそんな古典的な雰囲気よりも「ブティック」だという。しゃれた婦人服や小物を扱う小売店のように、得意分野に特化した金融商品を投資家に提供する小型金融事業が派生している。

 6月には米財務省が証券化市場の規制監督を強化、消費者金融保護庁の設置、公的支援を受けた金融機関や企業の幹部に対する報酬制限など矢継ぎ早に金融規制改革案を発表した。こうした規制の対象となる大手銀行、金融会社は「網代の氷魚」同然。自由を失い、市況が好転しても立ち直りは遅いと、見切りをつけた金融エリートが再就職よりは自立を目指し、政府の掣肘(せいちゅう)を受けず、小回りが利く機動力で万一の金融危機再燃にも強い「ブティック」を次々に立ち上げているのだ。また、競争相手の欧州系銀行が優秀な人材確保の絶好の機会とリクルートに力を入れているので、欧州系に転身する動きも加速している。

 ウォール街が揺れているのは頭脳流出だけではない。米政府は公的資金を投入して大手金融機関の不良債権を引き受け救済してきたが、その不良債権の金融市場での処理をワシントンのお墨付きをもらった中堅金融会社が政府に代行して請け負っている。

 公的資金枠は約7千億ドルの巨額にのぼるから、処理は大変でも手数料収入などの収益はうなぎ登り。議会も本来の金融事業との利害関係の矛盾が生じないか目を光らせ始めた。脇役だった中堅金融会社が立役者としてひのき舞台に躍り出てきたのだから、ウォール街の風景も変わるだろう。(昴)

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 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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