イタリア中部のラクイラで開かれた主要国(G8)首脳会議(サミット)は、3日間の日程を終え閉幕した。経済危機への対応で、中国、インドといった新興国を加えた拡大会合が初めて共同宣言をまとめるなど、先進8カ国で構成するサミットの現在の枠組みをめぐり、大きな転機を迎えたといえよう。
象徴的だったのは、議長を務めたイタリアのベルルスコーニ首相の閉幕後の記者会見だ。「(G8に新興国などを加えた)G14が基本的な枠組みになるだろう」と、議長自らG8の限界を認める異例の発言を行った。G8の拡大に後ろ向きだった米国のオバマ大統領も記者会見で、新興国の関与なしに地球規模の問題に対応するのは「間違った考えだ」と述べた。
G8の地盤沈下の背景にあるのが、世界経済危機と地球温暖化という二つのグローバルな課題だ。経済危機については、世界の国内総生産(GDP)の約9割を占めるG20の枠組みが主体となり、既に2回の金融サミットが開かれた。
ラクイラでも主要な舞台は新興国を加えた拡大会合の場だった。共同宣言では、経済危機克服のため「あらゆる必要な措置」を取ることを確認し、世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)について2010年中の妥結を目指すことでも合意した。
半面、温暖化対策では先進国側と新興国側の対立が解けなかった。G8と新興国が参加した主要経済国フォーラム(MEF)は、産業革命以来の気温上昇を2度以内に抑えることの重要性を首脳宣言に記述したが、温室効果ガス削減の具体的な数値目標は盛り込めなかった。フォーラムに先立ち、G8は「50年までに先進国全体で80%以上削減」という踏み込んだ目標を示していた。G8の指導力が及ばなかったと言わざるを得ない。
中国の新疆ウイグル自治区の暴動を受け、急きょ帰国した胡錦濤国家主席の不在が、議論を停滞させた側面は否めない。図らずも中国の影響力の大きさが浮き彫りになった。
サミットの存在が問われた今回、G8がオバマ大統領の掲げる「核兵器のない世界」に向けた状況をつくることを約束した意義は大きい。米ロ英仏の核保有大国が率先することで、中国など他の核保有国を巻き込むことを期待したい。オバマ大統領は来年3月、米国で「世界核安全サミット」の開催を表明した。唯一の被爆国・日本も積極的にかかわらねばなるまい。
経営破綻(はたん)した米自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)から、優良資産などを引き継いで「新生GM」が発足した。米政府が株式の約6割を保有する事実上の「国有化」で経営再建へと踏み出した。
GMは、6月1日に日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用を申請して経営破綻した。それから約40日間という異例の速さで法的手続きを終え、新会社誕生にこぎ着けた。当初の想定では60?90日間だったから大幅な短縮となった。
背景には、巨額の公的資金活用に対する国民感情を意識して円滑な進展を示したいオバマ政権の意向があった。政府は手続きが長引けば清算の恐れがあると強調、連邦破産裁判所も清算による影響を懸念して混乱回避重視に動いたといえよう。
新生GMは「シボレー」や「キャデラック」など4ブランドに絞って経営資源を集中させる。低燃費の小型車重視、人員や販売店の削減なども進め2010年の再上場を目指す。記者会見に臨んだヘンダーソン最高経営責任者(CEO)は、GM新時代をアピールするとともに、「15年までにできるだけ早く政府資金を返済したい」との決意を示した。
しかし、先行きは不透明だ。破綻を招いた原因の一つが、利幅の大きい大型車頼みで低燃費や環境対応技術への投資を怠った点にある。電気自動車やハイブリッド車などの開発・販売競争が激化する中で、遅れを取り戻しての魅力ある車づくりは容易ではない。全米自動車労働組合が政府に次ぐ新生GMの大株主ということも、経営効率化の懸念材料となりかねない。
新生GMが、大幅な意識改革やしがらみを断ち切って経営を軌道に乗せられるか。正念場はこれからだ。
(2009年7月12日掲載)