前後移動でワンパターン脱却 大ナタとカミソリで世界斬る
オグシオもシオオグもいける!【バドミントン・小椋久美子、潮田玲子】
「シオオグ」も強いんです。北京五輪で日本バトミントン初のメダルに挑む「オグシオ」は、後衛の小椋久美子(24)と前衛の潮田玲子(24=ともに三洋電機)の組み合わせで攻める。しかし、ここ数年は小椋が前衛、潮田が後衛に移動して攻める「シオオグ」も攻撃力を増した。それが昨年の世界選手権銅メダル、念願の初五輪代表に結びついた。
攻撃中心
171センチの長身から後衛の小椋が、パワフルなスマッシュをたたきつける。前衛の潮田は、ネット際で魔術師のように正確なクロスとヘアピンを決める。日本バドミントン協会の今井事務局長は「小椋が豪快な“ナタ”なら、潮田は切れ味鋭い“カミソリ”」とオグシオの攻撃を例える。
2人が平行に並び、守備中心で粘りながら活路を見いだすスタイルをサイド・バイ・サイドという。これに対して「オグシオ」は攻撃中心で前衛、後衛といった役割分担をベースとするトップ(前衛)&バック(後衛)のスタイル。2人の持ち味はまさにこのスタイルにマッチしていた。
小椋は長身で、腹筋、背筋が強くバランスが崩れない。三洋電機の中島慶コーチは「どんな体勢でもバランスが崩れないから、強いスマッシュが打てる」と話す。一方の潮田は、巧みなラケットコントロールで、シャトルを操る。「コースを隠しながらシャトルのスピードを調整できるのは、タッチが優れているから」(中島コーチ)。前衛として申し分ない能力を秘めている。
徹底強化
しかしどんなに協力なトップ&バックでも、ワンパターンでは、世界トップには通用しない。「オグシオ」が世界で通用するようになった最大の要因は、実は後衛潮田、前衛小椋の「シオオグ」が強化されたからだった。アテネ五輪前に三洋電機の喜多努監督は「対戦相手は小椋を前に、潮田を後ろに下げておけば安心だった」と弱点を指摘。そこから「シオオグ」を徹底して強化した。
成果は昨年から出はじめた。小椋が前衛に立ちはだかることで、相手に威圧感を与えた。「小椋に届かないように相手はシャトルを高く上げなければならなかった」(喜多監督)。後衛の潮田は打ちごろになったシャトルを、針の穴を通すような抜群のコントロールで、相手の返しづらい場所へ突き刺した。
「オグシオ」から「シオオグ」に変わっても攻撃力は落ちなくなった。同時に相応効果も生み出された。喜多監督が言う。「2人ともショットの質が違う。野球の投手が速い球と緩い球を投げ分けるのと同じ効果が出た」(喜多監督)と、小椋と潮田がクルクル変わって攻めることで、相手のリズムを狂わせた。
アテネ五輪は、潮田が虫垂炎、小椋が左足小指を骨折し、間に合わなかった。しかし、着実に「シオオグ」攻撃に取り組んで以来、着実に成績を伸ばした。2004年全日本社会人でダブルス全国初制覇を遂げると、同年の全日本も初優勝。2006年アジア大会、そして2007年の世界選手権で銅メダル獲得。世界に近づいていった。
打倒中国
北京では、世界トップの中国の一角を崩さないとメダルはない。中国ペアは3組が出場。順当なら遅くとも準決勝では対戦することになる。一方で今回は2006年にラリーポイント制が導入されて初めて五輪。「何が起こるか分からない」(喜多監督)。「オグシオ」と「シオオグ」の2プラトン攻撃が、打倒中国とメダルを引き寄せる。【吉松忠弘】
- バドミントンの多彩な攻撃ショット
-
- スマッシュ
- コート後方から相手にたたきつける最も攻撃的なショット。男子の初速で350キロほど。
- カット
- オーバーヘッドから、シャトルを斜め側からたたき、ネット際に落とす。初速が速くブレーキがかかる。
- ドロップ
- カットに比べてフラットにたたき、柔らかいタッチでネット際に落とす。
- プッシュ
- コート前方で、ネットより高い位置でシャトルをとらえ、角度をつけて沈ませるショット。
- クロス
- ネット際でサイドから逆サイドに狙って落とすショット。
- ヘアピン
- コートの前方やネット前に落ちてきたショットを、髪留めのヘアピンのような弧を描く軌道で返球するショット。
- オグシオのライバル
- 女子ダブルスに出場する16組中、中国だけが3組出場する。世界1位のペアで、アテネ五輪、2007年世界選手権金メダルの楊維、張潔■組が北京でも、もっとも金に近い。オグシオは昨年のマレーシアオープンで初めて同ペアに大金星を挙げたが、通算では1勝4敗だ。同2位で06年世界選手権銀メダルの張亞雨、魏軼力組とは0勝3敗。この2組が2強で、残りの中国の干洋、杜★組、韓国の李敬之、李孝貞組にオグシオを加えた3組が銅メダル争いとなる。
※■は雨の下に文、★は女に青
- 小椋久美子(おぐら・くみこ)
- 1983年(昭和58年)7月5日、三重県川越町生まれ。8歳でバドミントンを始め、四天王寺高で2001年全国高校選抜シングルスで準優勝した。02年に三洋電機入社。同年、全日本シングルスを制覇し、予選からの優勝は史上初の快挙だった。04年から潮田とのペアで全日本ダブルス4連覇中。昨年の世界選手権では銅メダルを獲得した。171センチ。家族は両親と兄、姉、弟。
- 潮田玲子(しおた・れいこ)
- 1983年(昭和58年)9月30日、福岡県苅田町生まれ。6歳でバドミントンを始め、新津中で全中シングルス優勝。九州国際大付高では全日本ジュニア・シングルスを制した。2002年に三洋電機入社。04年から小椋とのペアで全日本ダブルス4連覇中。昨年の世界選手権では日本女子4年ぶりの銅メダルを獲得した。166センチ。家族は両親と兄。