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福知山線脱線:解説…12人不起訴 国も不問

新たに設置された新型ATS(自動列車停止装置)=兵庫県尼崎市で2005年5月3日午前10時28分、武市公孝撮影
新たに設置された新型ATS(自動列車停止装置)=兵庫県尼崎市で2005年5月3日午前10時28分、武市公孝撮影

 神戸地検が山崎正夫社長を起訴したことは、鉄道会社が必要な安全対策を怠れば、幹部ら管理責任者でも刑事責任を問われることを示した。しかしなぜ山崎社長1人だけが起訴されたのか、疑念は残る。

 業務上過失致死傷罪を適用するには「予見可能性」と「結果回避の可能性」を立証しなければならない。今回の事故がATSを設置していれば起きなかったこと(結果回避の可能性)はJR側も認めている。一方で地検は、予見可能性があったのは山崎社長1人だけだと結論付けた。だが例えば、旧国鉄時代からカーブでのATS設置はマニュアル化されており、その有効性は広く知られていたはずだ。基幹路線である福知山線のダイヤや路線変更の詳細を、一握りの幹部しか知らなかったという判断も疑問だ。

 さらに、現場カーブを付け替えて以降もスピードアップ競争が激しくなり、ダイヤが過密化した。定時運転厳守を求められる運転士が速度超過の危険を抱えていたことは、乗車すれば分かるはずだ。こうしたことは、幹部らの共通認識だったと考えた方が自然ではないか。国の責任が不問に付された点も見過ごせない。カーブ変更やダイヤ改正は鉄道事業法に基づいて国に届け出ている。事故当時、鉄道事業者にカーブでのATS設置を法令で義務付けていなかったという問題もある。

 国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会(当時)は最終報告書で「ATSの設置が緊急性のあるものと認識するのは必ずしも容易でない」などとして、事故の予見可能性を事実上否定。同様の意見は検察内部にもあったという。公判で予見可能性が最大の争点となることは必至だ。【吉川雄策】

毎日新聞 2009年7月8日 22時54分(最終更新 7月9日 0時27分)

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