ストライキ決行中の看板。立て看を見て、大学時代が懐かしくなったが、「スト決行」はあまり聞いたことがない。(撮影すべて筆者)
京都大学・時計塔前で、二人の男性非常勤職員が座り込んでいます。彼らは、「首切り」に抗議して、ストライキを行っているのです。この場所を「派遣村」ならぬ「首切り村」として、2月23日以来、2月25日の入試の日も含めてずっと生活しておられます。
この方たちは「
京都大学時間雇用職員組合」のメンバーで、今年5月に大阪・長居公園で行われた「大輪まつり」の際にもお会いしています。
私が取材した2月28日は天気がよくて大掃除ということで、テントは奥へたたんでいました。しかし、「ストライキ決行中」というデカい看板。そして彼らが入るドラム缶で作った風呂。これには「5年でクビ」というメッセージがありました。
そして、市場でもらってきたマグロの頭で作ったオブジェ(?)「首切り」。彼らの怒りが伝わってきます。なぜ、彼らはストライキを行っているのか。その背景を彼らから聞きました。
魚市場でもらってきたマグロの頭で作った「首切り」というタイトルの置物(?)。
■非常勤職員が半分近い、京大の実態
京都大学の職員は約5400人。図書館や事務、教授の秘書(正式には学部の事務局)などにいます。そのうち、なんと2600人が非常勤職員です。座り込んでいるのは男性ですが、非常勤職員のうち85%程度が女性だということです。
非常勤職員は、京都大学が独立行政法人になる前、「日日雇用」と呼ばれ、3月31日だけは任期の空白にして、4月1日からまた契約更新というスタイルをとってきました。空白期間を設けるのは、そうしないと違法になるからでした。欠員が出ればまず正規職員採用を優先させ非常勤にはなるべくしない。本来はそういう趣旨でもあります。
ところが、現実には大学当局は、これを逆手にとって1日だけ空白を設けて、4月1日から再雇用するという手続きを毎年繰り返してきました。毎年「新規採用」だから、給料も上がりません。それこそ、時給900円から上限は1200円程度です。月々の手取りは12万円程度です。そして、そういう人たちが、実際は「正規職員と同じ仕事」をしている場合も多く、たとえば学部の図書室では、女性非常勤職員が一人で実質的に仕事をこなしている場合もあるそうです。
ドラム缶で作った風呂。「5年でクビ」と大書。
■「首切りのための首切り」
そして当局は、2005年度以降に採用された人については、今度は「1日あける」というテは使わなくなったものの「5年以上は契約更新しない」という規定を作ったのです。当然、2010年度には5年の期限が来てしまう人が発生し始めます。当局は、それをそのまま適用すると発表しました。
ところで、大学当局は予算カットのために雇い止めにしているのでしょうか。そんなことはありません。期限が来た人の次には、また別の人を雇って穴埋めするのです。
せっかく同じ仕事をしていて慣れている人も多いのに、また新人を採用したのでは、元の木阿弥ではないでしょうか。実際、佐賀大学では「3年」を期限としていましたが、最近その条項が撤廃されたそうです。
京都大学のやっていることは、お二人によれば「首切りのための首切り」に過ぎず、「ひどい待遇に不満が出る前に切ってしまおうという狙いだろう」ということです。
■女性労働の搾取打破をも目標に
また、メンバーは「5年条項が撤廃されても問題解決にはならない」「そもそも、これは女性労働の搾取の問題でもある」と訴えています。
主婦のパートの仕事として位置づけられていた歴史が、ここでもあったのです(民間でも、役所でもそうですが)。 主婦のパートということで、昇給なしということも正当化してきたのです。彼らは「低賃金パート労働が、若者や、おじさんにも広がってきた。京大もその典型例だ」と指摘します。「扶養家族制度を前提につくられた差別的な非常勤職員の賃金体系、最初から『これだけでは食っていけない』賃金体系を多くの人に押し付けるのは無理であり、抜本的な制度の組み換えが必要」と、語気を強めていたのが印象的でした。
■官僚理事に誇り踏みにじられる
さらに、労使交渉で当局を代表しているO理事が、労働者の誇りを踏みにじる言動を取っています。京大の理事は8人いますが、労務担当O理事は、文部科学省から出向した年収1700万円の官僚です。O理事は、「非常勤職員には配置換えなど業務責任を課していない」、「非常勤の業務は臨時的・補助的」、「新たな人を雇うまでだ」と言い放っています。
正職員と変わらぬ仕事をしている非常勤職員にとって、誇りを傷つけられるような発言です。メンバーは「自分たちが首を切られる前にO理事の首を切るしかない」と、ストライキを決行するにいたったのです。
何も現場がわかっていない官僚に暴言を吐かれて引き下がっていられるか?!自分たちにも意地がある!、そういう心意気をお二人から感じました。私も、世の中全体をも変えていこうという心意気に大いに共感しました。彼らは、自分だけのことを考えているわけではないのです。
雨宮処凛さんをはじめ、多くの方々が応援のメッセージを寄せています。もちろん、大学の正規職員を中心とした労組も彼らの味方です。私も、貧困を撲滅し、男女共同参画を進めるという立場から、お二人に連帯したいと思います。
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