講演レポート
7月1日、本学流渓館会議室で、作家谷村志穂さんを講師にお招きしてアセンブリーアワー講演会が行われた。
会議室にはたくさんの聴講者が詰め掛けており、その年齢層はまちまちで、ファンの人も多かったようだ。そんな、たくさんの人が固唾を飲む中、講演会は始まった。
●谷村さんが作家になった訳。
谷村さんは、『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーとなったことで有名だが、実は『アクアリウムの鯨』がデビュー作である。講演会は彼女がなぜ作家(物書き)になったのか、というところから始まった。
谷村さんは北海道の出身で、北海道大学農学部で動物生態学を専攻していた。ちょうど卒業の時、担当教授に「君はこれから何をするのか」と聞かれ、研究を続けたい、と言ったところ、「君は研究者(科学者)として向いていない」と言われたのが直接のきっかけだったらしい。研究レポートがいささか強引に書かれていたらしく、担当教授(何と森鴎外の孫)に、物書きになったらどうか、と言われたのだ。就職活動もほとんど終わっていた時期だったこともあり、谷村さんはそのまま東京の出版社に就職を決めることにしたのだ。その後『アクアリウムの鯨』が出版された。
●谷村さんと京都
ところで、谷村さんは京都が好きでよくいらっしゃるらしい。町の雰囲気がとてもよい、と言っていた。奈良に行った時に、バス停で会ったおじいさんと話していたら、おじいさんがこんな事を言われたらしい。「奈良は地味でしょう。奈良は捨てられた女のような町だから。それに比べて京都は枯れないね。もう都じゃないのにね。」確かに都ではないのに京都は独特の文化をずっと保ち続けている。そんなところが良いのだそうだ。たとえ都が東京に移っても、「京都は京都」という考え方が生きている。そんな風に輝いている京都が好きなのだそうだ。
人は「こうである」と思うことで輝く。それは、人に対しても、物に対してでもあり、そんな風に輝きをもった人達はとても素敵である。
●パリのアメリカ人、フィッツジェラルド
1920年代、アメリカの富豪がお金を持って渡欧した。日本のバブルのような時代で、アメリカから多くの人がパリに集まった。「パリのアメリカ人」と言われる人達である。このアメリカ人のなかに、フィッツェジェラルドやヘミングウェイもいた。フィッツェジェラルドはこの時期のベストセラー作家で、ゼルダという妻がいた。この夫婦は、1920年代を代表するベストカップルに選ばれ、非常に優雅な暮しをしていたらしい。
しかし優雅な暮らしをしていたフィッツジェラルドであったが、作品が売れなくなり、しかしなおかつお金の使い方が変わらないフィッツジェラルドと、ゼルダとの間には冷たい風が吹き始めていた。
落ちぶれたフィッツジェラルドは気分を一新させようと、裕福な時に通っていたホテルリッツのバーに行った。しかし、バーの従業員も、顔見知りの常連も落ちぶれたフィッツジェラルドに対し、見知らぬふりをした。フィッツジェラルドはその事が悲しくもあり、嬉しくもあったという。フィッツジェラルドの作品はとても輝いているものが多く、それでいてどこか物悲しい。フィッツジェラルドの本のコピーで、名言がある。「時代が彼を生み、彼を見捨てた。」
日本でも、10年ほど前の話になるが、バブルの時代があった。日本中にお金があふれており、億単位の商談が交わされていた。その時代に生きた若い女性は「上流階級ゴッコ」を楽しんでいた人も多くいたと言う。(今も尚、フィッツジェラルドのようにそういう過ごし方が抜けない人はいるのだ。)しかし、日本のバブルと言う時代に、パリで言う文化は生まれたのだろうか。バブルを象徴する「もの」は多く存在しても文化となると、疑問符を持たざるを得ないのが実際ではないだろうか、と谷村さんは言う。
●モルディブ
モルディブは平均結婚回数が4回と、とても多い。女性は大体15才くらい、男性は20才くらいで初婚を迎える。もちろん離婚率も高い。どのように離婚が成立するかというと、ほとんどの場合、女性が「もうあなたといるのは嫌、違う人のところへ行く。」と言うだけだそうだ。その場合男性は絶対に言うことをきかなければならない。もちろん男性からの場合もあるが、その時は女性に新しい夫が出来るまで離婚は成立しないそうだ。一人の女性の平均出産人数は8人。離婚した場合子供は女性が連れて行くそうだ。
離婚によって恨みやいさかいが生じないのか、と谷村さんがたずねたところ、そういうものだと思っているため恨みなどはほとんど無いそうである。ちなみに今年の夏、谷村さんはモルディブでのことを書いた本を出版される。
●谷村さんの作品
デビュー作「アクアリウムの鯨」は、大学の研究助手の女性を描いている。これは、自分が実際に大学の研究機関に残っていたら、こんな感じだろうと思って書いたそうだ。
「結婚しないかもしれない症候群」は、結婚適齢期と言われる年齢を過ぎた独身の女性20人ほどに聞いた話をまとめたものだそうだ。結婚とは人間が二足歩行をするようになり、子供が他の生物に比べて未熟児なかたちで産まれてくるようになった頃からの必然ではないだろうか。子供を育てるために父親の助けは必要であり、その男性を繋ぎ止める手段として性があったとも言えるからである。又、人類が稲作をするようになり、田畑を耕すために人が群れだしたことも一因であろう。
ちなみに、恋愛と言われる気持ちが持続するのは、脳内化学物質が物語るに、4年ほどだそうである。
「利己的遺伝子」生物は遺伝子を運ぶ船である。沈みかけた小さな船に母親と子供が乗っていたら、母親が「私はいいからあなたは生きなさい」と言って水に落ちる話がある。これは人間が遺伝子を運ぶための生き物なら当然である。母親の遺伝子は古く、子供の遺伝子は新しいのだから。
■谷村志穂さんへの質問タイム■
谷村さんの講演が一通り終了して、会場からはファンからの質問の声がいくつかあがった。
Q.青い浮き輪はまだお使いですか?
A.モルディブで泳ぐ練習をしていて、泳げるようになったら、とたんに割れて(穴が空いて?)壊れてしまいました。そういうもんなのかもしれないね。気に入ってたんだけど・・・。
Q.セックスレスカップルについてどう思いますか?
A.最近の若い人の間では、セックスレスだけでなくサミシイ、と言う感情を抱かない人が増えている。結婚している人達としては、いわゆる動物園の様な状態になっているんじゃないでしょうか。
動物園のような状態と言うのは動物の雄と雌がひとつの檻に入ったとたん、そのつがいは、セックスレスになったりする事です。男性の性は攻撃性で象徴されたりしますが、その攻撃性が必要の無い、祝福された空間であるために、セックスレスになったりする、と言われています。
核家族化が進み、家族が少ない最近の夫婦でいえば、子供は自分達の部屋で眠っているし、親は一緒に住んでいない。動物園と同じで、性を交わし合える状況だったりするんです。それに比べ、昔の三世代家族とかのほうが子供をいっぱい作ってたりするでしょう。そういう事だと思います。
Q.人は個人を主体に動くのでしょうか?家族を主体に動くのでしょうか?
A.人は社会的生物ですから、どちらでもあるんじゃないでしょうか。それよりもなぜあなたがこういう質問を思いついたのか、と言うところに興味がありますね。(ちなみにこの質問はお坊さんからでした。)
質問が終り、時間が来た。その後谷村さんは、大好きな京都を探索する間もなく次の仕事をするため東京に戻り、北海道に向かわれた。その京都から帰るまでの時間を、研究室ででファンの人達とお過ごしになり、一人一人と楽しそうに話された。
ファンの人達は、大阪や滋賀から来ている人もおり、谷村さんの本にサインをしてもらったり、握手をしてもらったりととても嬉しそうにしていた。 |