きょうの社説 2009年7月12日

◎「七つ橋渡り」 おんな川の変遷を再確認
 昨年7月の浅野川はんらんからまもなく1年を迎え、復興支援キャンペーンとして七つ 橋渡りにちなむ「おんな川橋めぐり」が開催される。復興元年のことしは防災上の取り組みと合わせて、浅野川の自然や風習がいかに市民の暮らしに密着し、金沢らしい潤いをもたらしてきたかが再認識されたといえる。七つ橋渡りも地元に伝わる風習であり、今回の「橋めぐり」で「おんな川」の恵みに触れ、復興の機運を一層盛り上げたい。

 七つ橋渡りは、浅野川の7本の橋を無言で渡り、無病息災を願う風習である。被災後に 行われた昨年は、より地元の風習に親しもうと、公民館で七つ橋渡りの歴史などを学ぶ講演会や子供の参加を促す催しなどが行われ、これまで以上に関心の高さがうかがえた。

 7月24日に開催される「おんな川 橋めぐり」は七つ橋渡りを現代風にアレンジし、 天神橋、梅ノ橋など6つの橋を提灯(ちょうちん)を持ちながら歩く。はんらんから復興1年に至る変遷と浅野川の風情を肌で知る格好の機会となる。

 このほかにも、友禅流しや燈ろう流しなどの浅野川の風物が、地元はもとより、多くの 観光客を引きつける金沢情緒を醸し出している。これまで当たり前のように見てきた人の中にも、その価値にあらためて気づき、浅野川の存在を見つめ直した人も多かったのではなかろうか。

 危惧(きぐ)されてきた河川環境については、集中豪雨によって打撃を受けた生態系が 回復してきていることが生物調査で分かった。ことしは復旧工事の影響でアユ釣りは休漁になったが、金沢漁協の調査ではアユも確認されている。県水産総合センター内水面水産センターは、川が平常の状態に戻ってきていると分析しており、今後とも生態系や水質の変化を注視する必要がある。

 地元のよき伝統、風習、自然を守る意識の高まりは、住みよい地域づくりにとっても欠 かせないものである。多くの市民の取り組みによって、金沢の大きな財産である「おんな川」の流れを守っていきたい。

◎敦賀以西ルート調査 過大な期待はできずとも
 白紙状態にある北陸新幹線の敦賀以西ルートを検討するため、鉄道建設・運輸施設整備 支援機構(鉄道・運輸機構)が空中写真による測量に着手するという。敦賀以西の事業化はまだ現実感に乏しい将来の話であり、敦賀までの延伸実現を最優先したい福井県側はルート選定の議論にふたをしているが、北陸新幹線を完結させる敦賀―大阪ルートをいつまでも未定のまま棚上げにしておいて良いはずはない。

 鉄道・運輸機構が敦賀以西ルートの空中測量を始める背景には、次期衆院選を意識し、 整備新幹線を含めて歳出を見直すという民主党との違いを出したい与党側の政治的な思惑も働いているとみられる。国家的な事業は政治意思に大きく左右されるものであり、今後の北陸新幹線整備について民主党がどう考えているのか、明確な党見解を聞きたいという沿線住民の思いはますます強まろう。

 空中測量は、敦賀から小浜を経て大阪に至る「小浜ルート」、米原で東海道新幹線につ なぐ「米原ルート」、琵琶湖西側沿いに京都で東海道新幹線につなぐ「湖西ルート」の3ルートで行われる。

 小浜ルートは1973年策定の整備計画で示されたが、事業費が膨大なことなどから米 原、湖西ルートも浮上してきた。しかし、両ルートも、北陸新幹線に大きなメリットを見いだしにくい滋賀県が積極的に動くかどうか、東海道新幹線の過密ダイヤの中に北陸新幹線の入る余地がどれだけあるか、といった難しい問題があり、ルート確定には相当の時間とエネルギーが要るだろう。

 もし、次の総選挙で政権が代われば、金沢(白山総合車両基地)―福井と敦賀駅部整備 の認可、着工を年内に行うという政府・与党合意もおぼつかなくなる。このため、合意事項の実現に当面全力を挙げ、地域対立を招きかねないルート論議は避けたい福井県側の心中は理解できなくもない。それでも、敦賀駅部整備が現実の日程に上り、福井―敦賀の認可も視野に入ってきたからには、連動する敦賀以西のルート選定作業を放置しておくわけにはいくまい。