ここから本文エリア 現在位置:asahi.com> マイタウン> 北海道> 記事 強制連行 劉連仁さんの物語 絵本に2009年07月11日
■強制連行〜炭鉱から脱走〜終戦知らぬまま13年間山中に 戦中、中国から強制連行されて北海道の炭鉱から脱走し、終戦を知らないまま道内の山中で13年間を過ごした劉連仁(リュウ・リェン・レン)さんを描いた絵本が、8月に刊行される。戦争やその時代の記憶が薄れていく中で「忘れてはならないことがある」と、劉さんが発見、保護された石狩支庁当別町の清水三喜雄さん(61)らが制作した。「知らない世代」へ手渡したいと願いを込めた本には、保護直後の記録や中国の著名作家による関係者インタビューなども資料として付け、多面的に「劉連仁」を浮かび上がらせる。 劉さんは1944年9月、山東省から空知支庁沼田町の炭鉱に連行された。当時32歳。45年7月に仲間4人と逃げたが、途中で1人になり、終戦を知らないまま宗谷や網走、十勝地方などを転々とした。 木の実や草、野菜、海辺では海藻などを食べ、ぼろ切れをまとい、冬は穴を掘って零下20〜30度の厳冬に耐えた。発見されたのは58年2月。当別の山中でウサギ狩りをしていた男性が穴の中の劉さんを見つけ、保護した。 「その生命力、精神力に、畏敬(いけい)の念を覚える」。ミニコミ紙の当別新聞(週1回発行)の編集人で、地域の歴史の掘り起こしにも力を入れる清水さんは驚嘆する。当別には劉さんの記念碑もあるが、発見した男性が亡くなるなど当時を知る人は少なくなってきた。「『それは事実なんですか』と聞いてくる人もいるくらい。だから、こういう人物がいたことをまず知ってもらいたいと思ったんです」 文は清水さんが書き、絵は町教育委員長の大澤勉さん(71)が担当した。タイトルは「劉連仁物語〜当別の山中から」。道が運営するサイト「伝えたい北海道の物語」デジタル絵本館の今年度の作品として応募し、すでに紹介されているが、さらに絵本としても響文社(札幌市)から刊行することにした。B5判、32ページで、1800円(税別)。 本に挟み込む資料は、中国語訳や、発見者からの当時の聞き取りの記録、「逃走」の経路図など。中国でノーベル文学賞に最も近いと言われる作家、莫言(モー・イェン)さんが04年暮れに当別で関係者にインタビューした記事も収録する。 劉さんは91〜98年に3度、当別を訪ねる一方、国を相手に損害賠償を求めて提訴したが、判決前の00年に87歳で死去。裁判は家族が引き継ぎ、一審の東京地裁で勝訴したものの、高裁、最高裁は劉さん側の訴えを退けた。 「日本政府の責任などを告発調に書くのではなく、劉さんを忘れてはいけない、という気持ちで書いた。強制連行などにさらに関心をもつかどうかは読む人次第だが、少なくとも『入り口』までは案内したい」と清水さん。 問い合わせは当別新聞企画室(0133・22・2362)へ。
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