この人物のオモテとウラ　小林正彦（石原プロモーション・専務）

●外国人レスラーをねじ伏せた武勇伝も

　７月５日に東京・国立競技場で石原裕次郎（享年５２）の２３回忌法要イベントが行われた。競技場内に建設された「裕次郎寺」は、鉄筋約２００トンを使用した５階建てマンションほどの高さ１７メートルで、幅４３メートル、４２６平方メートル（約１２８坪）。２４時間３交代制で３日間の突貫工事では、６台の大型クレーンが林立するなど、前代未聞の光景だった。総工費は推定十数億円といわれている。

　この一大イベントを仕切ったのが、石原プロモーションの小林正彦専務。通称・コマサ。清水の次郎長一家の大番頭だった「小政」にちなむ。あだ名は「大番頭」。絶妙なマネジメント手腕で石原プロを長年にわたって支えている。軍団のためと判断したら、どんな非難や中傷を浴びせられても気にしない。仕事に関しては強引で、挑発的。時にはひんしゅくを買うことも。別名は「銭ゲバ」だが、阪神大震災では、その直後の炊き出しや移動入浴車の寄贈、四万十川のクリーンキャンペーンなどで貢献し、軍団の名を上げているのは、まさに大番頭ならではの手腕だ。

　１９３６年、三重県出身の小林はホテル専門学校を経て、日活ホテルに入社。フロントボーイだったが、筋が通らないと、相手が客だろうが上司だろうが食ってかかり、実力行使に出ることもたびたびだった。バーでただ飲みをしようとした外国人プロレスラーをねじ伏せたなど、数多くの武勇伝を持つ。

　その後、系列の日活撮影所に異動になったが、そこで裕次郎や渡哲也（現・石原プロ社長）と運命的な出会いがあった。小林のバイタリティーあふれる仕事ぶりが裕次郎の目に留まり、６５年に石原プロに入社。裕次郎と渡とコマサの関係は「奇妙な三角関係」で調和が保たれていた。裕次郎はコマサに強かったが、渡には弱かった。ところがコマサは渡には強いという。

　裕次郎とは“一卵性双生児”と評された間柄だった。７２年頃、石原プロが巨額の借金を抱え、倒産が噂された。当時、「会社がつぶれても仕方がない。オレは成城の家を売ってアパートに住む」と言った裕次郎に小林が大反対。「ヨットに乗って、外国行って、格好いい服を着ているのが石原裕次郎なんだ」と、借金返済のための３億円を小林専務がかき集めたというエピソードもある。

　また、裕次郎の肝細胞にがんが発見された時には「このことはボス（裕次郎）には言えない、言わない」と決心した。裕次郎の入院時には連日の病状会見を行ったが、頭の中はいつも“最期の演出をどうするか？”。

「私の手で裕次郎さんに最期の花道を飾らせてあげたかった」と小林専務。８１年、裕次郎が動脈瘤（どうみゃくりゅう）の大病から奇跡的に一時回復した時に、入院先の慶応病院屋上で、集まったファンやマスコミ関係者に手を振るという演出は、ほかでもない小林専務の提案だった。後に本人が「ボスも奥さんも絶対できないと言ったが、私が強引にお願いしました。裕次郎さんはファンにとっては太陽なんです。最期だからこそ、太陽の下で裕次郎さんらしいメッセージをファンに送って欲しかった」と語っている。

　あの印象的なシーンは、裕次郎とファンをつなぎたいという彼の熱い思いがあふれていたからこそ、実現したのだ。

　２３回忌の法要イベントを仕切ったコマサこそ、渡社長をしのぐ、軍団最大の実力者なのだ。

（日刊ゲンダイ2009年7月8日掲載）