左上:(株)びっきょ本店と「そのまんまラーメン」。右上:県庁西隣の「そのまんま市場」。左下:東国原後援会事務所の入った宮崎駅前ビル。右下:居酒屋の知事イラスト入り幟。
クレヴァーで何事にもソツのない東国原英夫・宮崎県知事(50)だが、この度は、いささか事件への対応が甘かったように思う。知事が自らの複数の後援団体への貸付金約510万円を、先に公表された資産報告書に記載しておらず、このほど訂正して陳謝したが、これは単なる記載漏れで、大した問題ではない。
深刻なのは去る7月、宮崎市佐土原町で発覚した「県産ウナギ偽装事件」(台湾産を県産と偽る)への対応である。農水省と県はJAS法(日本農林規格)違反の疑いで8月以降、調査を開始した。疑いが事実であることが、当該業者へのテレビ取材で確認され、全国放映されたため、県産ウナギの出荷に多大な影響が生じている。ちなみに、宮崎県のウナギ生産量は全国第3位。
知事は9月末になって、県議会へ調査結果を報告、2社の違反卸売業者名を初めて公表して「厳重注意」処分に付した(処分が甘いとの批判がある)。併せて、発覚以来3ヵ月も経過し、その間に「風評被害」を招いた。知事は「対応がスピード感に欠けていた」として議会で陳謝した。
今年1月、東国原知事誕生とともに、宮崎県で発生した「鳥インフルエンザ」への新知事の対応は素早く、「風評被害」を最小にとどめ、マイナスを逆手にとって「みやざきの地鶏」を全国にPR、八面六臂の活躍で県民の絶賛を浴びた。このことが今日、各種世論調査での90%以上の高支持率の源泉になっている。
この二つの事件への知事の対応の落差は、一体何であろうか。実は、偽装ウナギの加工品には、当該違反業者が仲介して知事のイラストシールが貼られており、このことが影を落としているように思われる。
知事の似顔絵イラストないしシールに関しては、先の6月県議会で「粗悪品が出れば、かえって宮崎のイメージを損なうことになる。適正な管理が必要」と指摘されていて、筆者もその必要性を本コラムに書いた
(「東国原知事イラスト」を管理せよ)。また、9月県議会でも本件について論議が沸騰、議会最終日の当該委員会審査報告は、「ウナギにとどまらず、県産全ブランド品の危機。知事は先頭に立って対処せよ」との意見を付し、議決された。
知事は今回の事件に激怒したとのことだが、イラストなどの使用は従来通り自由とした上で、使用者に品質管理を徹底するよう要請するとともに、「イラストなどを販売する会社」に、違反者に対しては使用取り消すよう求めるにとどまっている。
「イラストなどを販売する会社」は、「(株)びっきょ」(知事の出身地・都城地方の方言で蛙(変える)の意)という会社。この会社は本年4月半ばに設立され(資本金 1万円 株数10株)、取締役に東国原英夫後援会長、同事務局長、知事の政務秘書(元芸人)、それに知事の実姉の4人が、そして代表取締役・社長に後援会長が就任している。
ところが、県の選管から「知事の後援会が、知事のイラストなどの販売活動を行うのは、選挙の事前運動として公選法に抵触するおそれがある」との指摘を受けた。知事は急きょ、知事の芸能人時代の相方・大森うたえもん(本名・大森博文/48)氏に入社ならびに宮崎移住を要請。同氏は「宮崎の活性化のため知事を支えたい」として、5月中旬、当初の4人の取締役が辞任、大森氏一人が代表取締役・社長に就任した。
同社は主として知事のイラストならびにシールを販売、イラストの場合、1件当たり3万円(税別 1年間有効)で、すでに300件以上・約1000万円を売り上げたといわれる。シールは大きさによって、1枚2円から7円で売られているようだ。同社の使用供与基準は県産品であることだけで、品質評価能力はないから、事実上野放し状態にある。また、過日、同社は100万円を県に寄付した。
同社はまた、チエーン展開を目論む「そのまんまラーメン」を市内繁華街の一角に開店。県庁ツアー客で繁盛する県庁東隣の県・物産振興センターに対抗して、同庁西隣に「そのまんま市場」を開設、事業拡大に余念がない。知事はブログで「そのまんまラーメン」に触れ、「中々の味だと思う。ただ、卵は半熟、沢庵は取り放題にした方がいい。欲を言えば餃子をメニューに加えて欲しい」とフォローしている。
「(株)びっきょ」の設立当初は、前記の後援会への貸付金の回収を含む、政治資金の確保が目的であったかも知れないが、現在は大森社長の下で、形式上は独立した民間会社となっている。しかし、大森氏と知事との長年の密接な関係、社長就任の経緯から言って、知事直系の「しがらみのある」会社であることは否めない。
知事のイラストないしシール付の商品やグッズは、空港、JR駅、道の駅、ホテル、百貨店など県内のあらゆる売店に溢れ、飲食店には知事のイラストを染め込んだ幟がアチコチに立っている。さながら、知事の提唱する「県民総力戦」の様相を呈していると言ってよい。
知事はブログで「特に食品に関して、僕のイラストが貼ってあるからと言って、僕がお墨付きを与えたとか県が推奨したということは決して無いのだが、消費者にはどうしてもそのように捉えられるので、イラストを貼る県産品等の品質管理には十分に配慮して頂きたい」と書いている。だが、こんな甘いことでは「県産品ブランド」は守れない。マンゴーや地鶏は大丈夫なんだろうか。
宮崎県は、県内の農家と全国の消費者を「安心、満足、信頼」で結ぶ県産農畜水産物の「商品ブランド認証制度」を創設、現在30品目を指定している。判断基準は安心・安全のトレーサビリティシステムを基本に、外観、味、鮮度、規格、旬、栽培方法など厳しい。
県産食品部門における「知事イラストなど」の使用は、繰り返すが、県が、つとにやってきて厳選され、「認証された品目」にとどめるべきである。