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【産経抄】7月8日
このニュースのトピックス:産経抄
「西域」はロマンの含有率がはなはだ高い言葉である。ある人は草木なきタクラマカン砂漠を行く隊商を思い浮かべ、ある人は敦煌の壁画を、あるいは彷徨(さまよ)える湖・ロプノルを連想する人もいるかもしれない。
▼作家の井上靖さんは西域を舞台にした「敦煌」など数々の名作を世に送り出し、シルクロードブームの素地をつくった。その井上さんと司馬遼太郎さんらが昭和52年の夏、ウルムチやトルファンなど新疆ウイグル自治区を旅している。
▼井上さんは帰国後、司馬さんと対談し、こう語っている。「(ウイグル人で)中国の人民服を着ている人などは、一人もいない。そこに、中国の少数民族対策の、やさしさのようなものが見られますね」(「西域をゆく」文春文庫)。
▼大作家といえども人間である。それまでほとんど外国人に門戸を開いていなかった西域に招待されたのだから、筆先が甘くなるのも致し方ない。ただし、32年後の今、中国の少数民族対策が「やさしい」なんて書いたら歴史小説家失格だろう。
▼ウルムチの暴動で亡くなった人々の数に慄然(りつぜん)とする。中国建国当時、新疆ウイグル自治区の人口の7%程度だった漢族は今や4割をはるかに超えている。しかも、就職や教育をはじめ耐え難い少数民族差別がある。中国の新聞やテレビが、戦時中の日本のように一糸乱れず、「海外の独立派組織が扇動した事件」と大々的に報じているのは、胡散(うさん)臭い。
▼現地では理由も告げずに警察が多数のウイグル族の住民を連行しているという。残された子供も心配だ。黒柳徹子さんやアグネス・チャンさんら人権擁護に熱心な芸能人や文化人のみなさんも中国政府に自制を求めてはいかがだろう。及ばずながら小欄も助太刀させていただくが。
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