「ジャクソン兄弟物語 2009」 第六章

2009.07.04

8、栄冠を抱いた凱旋・モータウン25と目標喪失
〜マイケル後編「スリラー現象」〜 




 クインシーとのタッグで、生まれてはじめて「マイケル・ジャクソンの音楽」を結晶化した名作「オフ・ザ・ウォール」、そして82年の年末にリリースされたお化けアルバム「スリラー」の驚異的なヒットは、それまでマイケル自身が強烈に抱いていたモータウンとの「人生を賭けた決戦」の勝利者をおのずと決めることになった。 

 もう誰も彼のことを「ちびっこマイケル」とは呼びはしない。J5時代の成功を超える成功・・・、これは普通のアーティストにははっきりいって無理な条件だが、遂に!遂に彼は成し遂げたのだ! 

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 そして、運命の83年3月25日。駄目押しの事件が起こる・・・。その日行われることになっていた古巣モータウン・レコードの25周年の記念ライヴは、マイケルと離れた後、凋落の一途をたどっていたモータウン社長ベリー・ゴーディーJrにとっては起死回生の打ち上げ花火だった。 

 煌めくスターの同窓会的競演!!!アイディアはいい。しかし果たしてうまくいくだろうか?企画者ゴーディーにとって気掛かりだったのは・・・、今まさにミュージック・シーンの絶頂を極めている男、マイケル・ジャクソンがそのライヴへの出演を長い間拒んでいたことだ。彼が出演しなければ、当然J5はステージに立てない。ゴーディーはこの日のステージで、数年前無理やり脱退させたジャーメインをジャクソンズに復帰させ、兄弟6人でJ5(6)を再結成させることが、企画の目玉になると考えていた。 

 このライヴは全米で放送される注目のプログラムだったので、普通のアーティストならノー・ギャラでも出たいくらいおいしい話(テレビ放送は5月16日)。なのに・・・、マイケルはゴーディーが今までの関係のように上の立場から「出てもいいよ」というのではなく、「お願いします。出てください」というまでは、モータウンを許す気はなかったのである。そして彼は恩師であり、宿敵でもあるゴーディーをこう言っていびったのだ。 

 (あの限りなく優しい声で)『「ビリー・ジーン」を歌えるなら、出てもいいよ・・・。』 

 ゴーディーにとっては屈辱的な一言だった。マイケルの新曲「ビリー・ジーン」は当然「今」のヒット曲で他のレーベル(エピック)の作品。せっかくモータウン25周年の一大イベントを企画し、ライヴ中モータウンの名曲が歌われ自分の業績が褒めたたえられるのに、なぜ一番のハイライトがマイケルの新曲なのか・・・。時代を掴めていないという事実に一瞬で客も出演者も気づいてしまうではないか!!しかし、マイケルが出ないモータウン25は考えられない・・・。 

 ゴーディーは膝をつくような心境だったはずだ。そして、その厳しい条件を飲んだ。ゴーディは経営者のみならず、優れたソングライターであった。J5のデビュー曲「I WANT YOU BACK」や「ABC」は彼こそが作詞作曲の中心人物なのである。それを気持ちよく歌ってくれればいいじゃないか・・・。 
 自分が育てたといってもいい10才の頃のちびっこマイケルと、彼との心理戦にまっこうから挑んできた24歳のマイケル・ジャクソン・・・。恩師と教え子。マイケルとの戦争に、ゴーディーは敗北したのだ。 

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 当日、マイケルは、ステージで長年仲違いしてきたジャーメインと抱擁しジャクソン5のヒット曲を数曲メドレーにして歌った。そして曲が終わると兄弟達は舞台袖へと次々と帰っていった。 
 マイケルはひとり残され、微笑みながらこう言った。「モータウンでの日々は本当に楽しかった・・・。ジャーメインと一緒に歌えたし、兄弟仲良く・・・、素敵なメロディーばかりだ・・・。でも、今、ぼくが歌いたいのは・・・、新しい歌なんだ!(きっぱり)」 

 その瞬間「ビリー・ジーン」の強烈なリズムが!!!マイケルは帽子をかぶり踊りだし、勝利を噛みしめながら歌う。そして、間奏部分では全米の視聴者が食い入るように見つめる中、はじめてあのムーン・ウォークを披露したのだ! 

You Tube で歴史的な一夜を、ご覧ください!! 
「MOTOWN 25 Michael Jackson 、と MOTOWN 25 Jacksons」
「モータウン25」。8年ぶりの再結成。6人のジャクソンズ(ジャーメインとの和解=マイケルのモータウンへの完全勝利)と、 世界中を驚かせたはじめてのムーンウォーク!! 

 今になって思えばこの日が、マイケルの絶頂だった・・・。この後、とんでもないトラブルと、こえられない壁が彼を四方八方から包むことになる。 
 そして、やっかいなのは今度の壁がゴーディーやJ5などの「外敵」ではなく、「マイケル・ジャクソン」という自分自身のイメージだったことだ。この勝利なき内戦がこの後20年間続くことになるとは、その時、誰も思わなかった。


ノーナリーヴス:西寺郷太のブログ「LIFE」