「ジャクソン兄弟物語 2009」 第二章

2009.07.02

4、「三男ジャーメイン、ジャクソン5のジョニー大倉」 




<ジャーメインとは?> 

 三男ジャーメイン。ジャクソン兄弟で最もからまわっている天然素材のワガママ男。ルックス、ヴォーカリストとしての資質、そしてその攻撃的で目立ちたがり屋の性格。もしも、ジャクソン・ファミリーのひとりひとりが戦国時代の武将であったとするなら彼は間違いなく天下統一できる可能性が最も高い男である。しかし・・・。結果的にはあまりの短絡的発想と、嫉妬心と、打算と、強引さで一番屈辱的な地位に甘んじることとなってしまった。 

 彼は三男だが、前述のように上の兄ふたりは心が優しい連中で自己主張も強くないので、実質的には上の世代のリーダー的存在である。ヴォーカリストとしても男兄弟ではマイケルの次に実績を残し、その甘い歌声にはかなりのファンがいる。もともと幼いマイケルが歌いだすまでは、ジャクソン兄弟のリード・ヴォーカルは彼だったし、ジャクソン・ファイヴ(以下J5)もマイケルのハイトーンとジャーメインのバリトンがうまいぐあいに重なってあの奇跡のハーモニーの軸をなしている。その関係は、まさにキャロルにおける矢沢とジョニー。もっと言えば藤子F不二雄とAのような、対等とまでは言えないが7/3くらいの均衡した力関係であった。事実J5のコンサートで一番ブロマイドが売れたのはジャーメインで、マイケルが子供を可愛がる層に愛されるチャイルド・スターだったのに比べ、彼こそがティーン・アイドルのチャンピオンでありセックス・シンボルだった。女の子はジャーメインにこそ夢中だったのだ。 

<歴史を変えた電撃結婚> 

 しかし、ジャーメインにはいつも弟であるマイケルが邪魔な存在だった。結局、自分がどれほどアピールしたところで、最終的にはすべて「幼く可愛いマイケル」に注目が集まってしまう。
 あいつがいなければ・・・、と彼は何度も思ったことだろう。そしていつかJ5が消滅しても(当時はマイケルが声変りをするまでの一時的な人気と考えられていた)自分だけはソロとして生き残りたいという想いが彼を若くして政略的な結婚に走らせる一因となる。それが、所属レコード会社モータウンの社長ベリー・ゴーディJrの愛娘ヘイゼルとの電撃結婚であった。
 
 これは後のジャクソン兄弟の運命を色んな意味で変える結婚だった。この結婚がなければマイケルの「スリラー」は多分存在しないし、ビートルズの版権をマイケルが買うこともなければ、小学生のぼくも「ヴィクトリー」というジャクソンズの再結成アルバムにハマることもなく、ともかくノーナもないし、このコラムを君が読むこともない・・・、しつこいようだがこの結婚で色んなことが変わったのだ。 

 当時J5が所属していたレコード会社モータウンはレコード会社というより敏腕社長であるゴーディの王国と言ってよかった。スティーヴィー・ワンダーもダイアナ・ロスもマーヴィン・ゲイも他のスター達もみんなワンマン社長の意向の元に存在していたと言っていい。完全バックアップでスターダムにのし上がったダイアナはゴーディの愛人であったし、マーヴィンは二十歳の時にゴーディーの美しい姉アンナ(17歳年上!)と結婚していた(つまり社長の義理の兄貴である・笑)。 

 そんなゴーディが溺愛していた娘と結婚するんだからジャーメインは跡取りのような存在になるわけで、これは当時の感覚から言えば将来安泰間違いなし、モータウン王国の王位継承権をゲットしたような状況なのだ!!! 

 でも両家のメンツをかけた豪華な結婚式も終わった後、みんなはふと考えた。それは「J5がもしもモータウンを離れるとき、ジャーメインはどうするんだろう?」ということ。現実にはその可能性はかなりあって、時代の流れがぐんぐん変わり、子供だったメンバーも大人になっていた。まだ相対的な華やかさはあったものの、モータウンという「古い会社」は徐々にレコードの売り上げの落ちてきているジャクソン兄弟にとって重荷になりかけていたのだ。 

 そんなふうにして迎えた家族にとっての悲劇。それが、父親ジョー主導によるエピックへの強引な移籍であった。このことで当然のことながらモータウン社長のゴーディとジャクソン家の関係は最悪のものとなる。

 そして、ジャーメインはJ5脱退、モータウン残留を決めた・・・。

 ゴーディに、ソロ・アーティストとして将来の完全なるバックアップを約束されたジャーメインは、嫁と義理の父親を選ぶ。スタートするツアーへの不参加には躊躇したジャーメインだったが、社長ゴーディはそんな彼を恫喝。ジャーメインは苦悩の末、J5のライヴを直前でドタキャンする。

 これにはパパ・ジョーが「あいつはオレの子供だ。ゴーディの子ではない」と激怒。兄弟も落胆した。
 しかしツアーは決行。必死にジャーメインのパートを歌うマーロン(歌下手)。精神的には父親と兄弟の間に様々な亀裂が存在していたとはいえ、インディアナ時代から協力してサヴァイヴァルしてきた家族のはじめての分裂劇だった。

 移籍して名前を変えた「ジャクソンズ」(ゴーディがJ5の名前の使用を許さず、無理やり改名させられた)は、この後ジャーメインの不在で他のメンバーとマイケルの才能の格差を埋められず、マイケルのソロ化が進むことになる。
 そして、ジャクソンズ時代にはまた違った魅力はあるとはいえ、初期J5の持っていた天才シンガーふたりがせめぎあうスリルは失われた・・・。 

 今になって冷静に見てみれば、ともかくマイケルはジャーメインのことが本当に好きだった(頼りにしていた)ことがよくわかる。才能溢れるマイケルには、自分と激突しても負けないジャーメインだけが音楽的に切磋琢磨できる唯一の存在だったのだ。それはライバルではあるがとても大切なブラザー。他の兄弟とは、「人の良さ」でつきあえたマイケルも、ジャーメインとは確実に「仕事のパートナー」として全力で向き合えたことが彼の当時のインタビューを読むとよくわかる。しかし、数々の事件を起こしたJ5脱退後のジャーメインはマイケルにとってどうしても許せない敵になっていく。 

<迷走するジャーメイン> 

 ジャーメインは粗野な男で、大恋愛の末結婚したへイゼルともその後離婚したのだが、なんと別れてから嫌がる彼女に性的関係を強要したことで告訴されたりしている。最悪だ・・・。マイク持ってるジャーメインは最高なのに・・・笑。

 ともかくマイケルのことを悪く言ってはゴシップ誌にとりあげてもらったり、一度はバッシングの歌までリリースした。それなのにここ数年何度も再結成の噂を東スポに語ってはファンをヌカ喜びさせている。ジャーメインの株は下がる一方だ。 

 2001年のNYの再結成の時もランディを勝手に味方にひきずりこみ出るの出ないので大騒ぎして長男ジャッキーに「じゃあ、お前だけ出るな!」とたしなめられている。末弟のランディにも「おれがあんたがいない間、あんたのパートを歌っていたから拗ねたんだろう。これ以上ワガママにつきあわせるな」と失笑される始末。
 その上、ステージ衣装でマイケルは全身白に金のレガースで目立ちまくり、他のメンバーは空気を読んで割と地味な服装だったのに、ジャーメインは白で丸かぶり。対抗意識丸出しだった・・・。 

 とはいえ、70年代末から80年代初頭のスティーヴィーと組んだ「レッツ・ゲット・シリアス」や「ダイナマイト」などの作品群には素晴らしい曲も多いし、マイケルとマーロン脱退後のジャクソンズの今現在のラスト・アルバム「2300ジャクソン・ストリート」ではなんとリード・ヴォーカルに悲願のカムバック(マイケルがいなくなったから)。この作品は力作だったがヒットせず、ジャクソン兄弟にとって逆風の90年代へと突入する口火を切ることになった。 


 ただプレイボーイ誌でヌードになったラ・トーヤに熱血漢らしく面と向かって説教したり(マイケルはショックでオロオロしてただけ)、ジャネットが最初の結婚で相手に酷い目にあわされた時などは、持ち前の喧嘩っぱやさで相手(兄弟グループ「デバージ」のジェイムス・デバージ)をドツキ回しに行ったり、マイケルの裁判の時も家族を代表して理不尽な報道に猛抗議したり、そういう暴力性で良くも悪くも頼りになる時も多い。 

 男兄弟の中で恐ろしい親父に一番反抗できたのも、マイケルが成長するまでは彼だった。もし彼が三男じゃなくって、長男だったらもっとJ5もまとまってたかも・・・。基本的には悪い奴ではないと思うのだが・・・。
 
 90年代初頭にイスラム経に改宗している。それと関係あるかはまったくわからないが、95年に彼が迎えた二度目の妻はなんと実弟ランディの元嫁であるアレハンドラである(!!!!)。兄弟と「兄弟」になるという謎の関係・・・。
 しかし、結局約十年で彼女とも離婚し、直後に三度目の妻と結婚している。

 彼が殴りに行った「若気の至り」のジェイムス・デバージとジャネットの関係よりよっぽど悪質でややこしい(?)感じもするのだが・・・苦笑。

 マイク持ってて!ジャーメイン! 


<左から、仲の良さそうなティト、ジャネット、ジャーメイン>



<おまけ>
 ジャーメイン在籍時のJ5はパーフェクト。マイケルとの天才歌手ツー・トップは完璧で、 「これこそが音楽」と感じます! 



 ジャーメインが急に脱退してしまったせいで、ジャクソン5は4人プラス末弟ランディ(コンガ)で5人になります。いつもはステージ左にいたティトが右に移りごまかします、探してみてください・笑。 
 たいていこの時期は口パクで踊っているのでジャーメインの低い声が鳴っているのに彼がいない不自然な状態。でも曲とダンスは最高です! 



ノーナリーヴス:西寺郷太のブログ「LIFE」