「魔将ガイエル」というニックネームは、どのくらい浸透しているのだろうか?
来日1年目の2007年開幕当初から、ガイエルはそのメジャー仕込みのパワフルなプレースタイルと不思議現象の数々で、一部ファンの熱烈な支持を集めてきた。並べてみよう。
・打席に立てばほとんどバットを振らずに、四死球を選びまくる。
・平凡なフライを打っても敵チームの選手がなぜか落球してしまう。
・折れたバットが打球といっしょに相手野手を襲い、タイムリーヒット。
・ライトスタンド一直線のホームランを打っても、なぜかスタンドは静まり返って無反応(通称サイレント・ホームラン)。
・実況のアナウンサーも解説者も、気づかないうちに盗塁成功(通称サイレント・スチール)。
打率が2割台なのに出塁率が4割を超えていた?
これらのプレーが話題となり、ネットにはガイエルを素材にした画像・動画なども出回り、いつしか「魔将」の愛称が定着していく。
打率は2割台前半なのに出塁率が4割を超えるという特殊な打撃成績に、「なぜバットを振らない打者に、投手は四死球を連発するのか。それはガイエルが空間を歪めているからではないか」という“魔空間”操作説も浮上。ガイエルの周辺で、敵味方を通しておかしな失策やイレギュラーな打球が多発するのもそのためではないかと、ネタは広がっていく。
その後も不思議現象は止まらず、1イニング2死球の珍記録や、1試合3犠飛のプロ野球タイ記録、一塁ベース直撃のイレギュラーヒットなどを連発。
極めつきは古田敦也の引退試合。ガイエルが高々と打ち上げたショート後方へのフライを、相手野手が激突して落球。ボールが転々とする間に、今まで見せたこともないような猛スピードでダイヤモンドを回ると一気にホームまで駆け込み、ランニングホームランを決めてみせた。これこそ空間を自在に操る“魔将”のハイライト・シーンといえよう。
しかし、ガイエルのネタ・エピソードを紹介するのが……本稿の主題ではない。注目して欲しいのは、実はガイエルの守備力である。
“ネタ”で騒がれるだけじゃない、その守備力の凄さ。
'06年から'08年のセ・リーグ外野手のレンジファクター・ベスト3と、守備記録をまとめてみた(次ページの表を参照)。
レンジファクター(以下、RF)とは、1試合平均でいくつのアウトに寄与したかを表す守備の指標で、以下の式で計算する。
RF=(刺殺+補殺)÷守備イニング×9
目安として、中堅手ならRFが2.0、左翼手と右翼手なら1.8を超えると、優秀な守備記録と言える。いくつエラーしたかではなく、いくつアウトを取ったかで守備力を評価するところにこの指標の特徴がある。ただし、守備イニング数は公式記録として発表されないため、ここでは出場試合数で代用して計算している。
外野手の場合、刺殺はおおざっぱに言ってフライやライナーを捕球してアウトにした数。補殺は送球によってアウトにした数。外野手の刺殺数は守備範囲の広さや捕球能力を示し、補殺数は肩の強さや送球の正確さを示す。
<次ページに続く>
(更新日:2009年7月8日)
筆者プロフィール
田端到
1962年、新潟県生まれ。コラムニスト。競馬、野球の分野を中心に活躍し、著書に監督采配をデータから論じた「図解プロ野球 新・勝利の方程式」、「パーフェクト種牡馬辞典」など多数。ヤクルトスワローズ愛好家でもある。
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