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経済成長のミステリー

ここのところマクロ経済学といえば、財政・金融政策の話ばかりだが、Acemogluも指摘するように短期的な安定化と長期的な成長はつながっており、長期的な問題の解決にならない一時しのぎのバラマキは経済力をかえって弱める。特に日本の場合、一時的な需要ショックの局面は終わりつつあり、持続的な潜在成長率をいかに高めるかが次の政権の課題だろう。

ところが成長理論の教科書はAcemogluとかAghion-Howittのように数学的に高度なものが多く、日本語で読める入門的な教科書はジョーンズの10年以上前の本ぐらいしかない。本書は成長理論の第一人者が、最近の動向を数式なしで(!)やさしく解説したもので、教科書ではなく、各国で成長率が大きく異なるのはなぜか、という「成長のミステリー」にテーマを絞ったモノグラフだ。

その答は短くいえば、生産性(TFP)である。国家間の一人あたり所得や成長率の差の半分以上はTFPで説明できる。いいかえれば、イノベーションの差が成長の差をもたらすわけだが、では何がイノベーションの差をもたらすのか。本書の立場はAcemogluなどの主流に近く、財産権や民主主義などの制度的インフラがしっかりしていることが重要だ、という考え方だ。ただShleiferなどの強調した司法制度の違いは、全体の40%ぐらいを説明するにすぎないとしている。

他方で、民主主義と成長率には大して関係がないという実証研究も多い。その最大の例が中国だ。韓国などのように「開発独裁」によって成長率が上がるケースも多い。ただ結果的には、経済発展によって政治も民主化することが多い。中国も、長い目で見れば徐々に民主化してゆくだろう。韓国は軍政から脱却するのに半世紀近くかかったが・・・
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コメント
 
 
 
開発独裁あなどれず (yasu)
2009-07-08 23:47:19
本を読んでいないので、表面的なことしか云えませんが、民主主義が成長率を妨げる場合もある気がします。例えば、効率的な交通網、通信網や、街作りといった、生産効率を高めるための、物理的なインフラの整備に関しては独裁国家の方が容易にできるわけですよね。日本のように人権がそれなりに擁護され、左巻きの強い国ですと、つながるべき環状線がいつまでも、つながらなかったり、通るべき法案が通らなかったり。物作りにおいても、そもそもコピー文化でオリジナルにこだわりが無いから、今ある技術、部分を組合せたり、取り替えたりして「一丁あがり」、って安易さが、いいとこどりの完全水平分業を可能にし、逆に強さの秘密かも(笑)。
 
 
 
何がイノベーションの差をもたらすのか (x-accountant)
2009-07-08 23:55:27
直感的には、「破壊」もしくは「新陳代謝」が行われ、こじれずにそれを国民が受け入れる体制になっているかどうかが、鍵のように思います。英米的な自由主義、市場経済の真の強みは、そこにあるのではないでしょうか?
江戸の町が発展したのは、大火と大地震が多かったからこそです。あるいは、日本の高度成長を明治維新と敗戦が可能にしたように。
日本や韓国が行き詰っているのは、戦争と言う外部的な力で破壊を実現したため、その効力が切れてきた時に、自力で新陳代謝をするシステムが無いためでしょう。中国も、辛亥革命、日中戦争、国共内戦、文化大革命、改革開放と激動の時代が続き、古い秩序や伝統の破壊、人口移動のダイナミズムなどが実現されたから、今大発展しているわけで、20年後ぐらいには日韓と同じように自力で新陳代謝をできるどうかという壁にぶち当たるでしょう。
 
 
 
民主主義 (Disequilibrium)
2009-07-09 07:00:06
民主主義と成長率は、やはり関係があると思います。
中国や韓国の例は反例と言えるのかもしれませんが。

例えば、日本の現状は、長く続きすぎた一党体制がもたらした腐敗というのもあると思います。
これは一票の格差や、死票の多い選挙制度、記者クラブなどという非民主主義的な制度がもたらした結果だと思います。
ただし、投票率が低いのは、国民がそもそも民主主義的ではないというのもあるかもしれません。

アメリカの例では、大統領がかなり滅茶苦茶な人間でも、大統領を代えて前進するには、選挙と任期の満了を待たなくてはならなかった。
これは、任期をもっと短くするなど、より民主主義的な(しかし手間のかかる)制度であれば、問題を小さくできたかもしれません。

また、実質的に二大政党制が長く続いていて、2つの政党間の違いがほとんどなかったり、選挙に非常にお金がかかる点も非民主主義的な点だと思います。(もっとも、これが経済に悪影響を与えているかどうかは微妙ですが。)
 
 
 
Unknown (pk-uzawanian)
2009-07-09 07:42:12
私は、この問題は世代の違いから生じていると思います。日本の場合は特に、大日本帝国の教育制度と戦後の教育を受けた世代の割合によって生じているのではないでしょうか。
資源配分は結局人間が決めるため、一国内で、人間の資源配分が比較優位に基づいてうまく移動するかどうかということが大きいと思います。おそらく帝国時代の教育制度を受けた世代では、自民党の古賀氏が東国原氏に出馬を依頼しにいくというようなことは、決して起こらないでしょう。
帝国時代の、全寮生活をして青春時代を共有したエリートの間では暗黙のうちに誰が何に比較優位を持っているのか評価が可能だったのではないかと思います。ですから、水が流れるように自然に人間の資源配分が可能であり、適材適所の人材が指揮をとって、その他の資源も適切に配分できた。これが高度成長期まで行われた。これが変わったのは、おそらく田中角栄からです。そして昭和天皇の逝去の前後に帝国の世代も失われ始めて、ついに長期不況に至るということではないでしょうか?
 
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