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棺を覆いて事定まる

2009年7月8日0時21分

 「かんぽの宿」売却問題に端を発し、所轄大臣の鳩山邦夫氏が突如日本郵政の西川善文社長のバッシングを始めた「鳩の乱」は、結局鳩山氏の実質更迭で一応の幕を閉じた。

 西川氏は、バブル崩壊後の金融危機の中で、もっともスキャンダルが多かった大手銀行の経営者として、苦境を乗り切ってきた。その過程では、きれい事ではすまない様々な事態ものみ込んできたはずである。全く清廉なだけの人だとは、言い切れないだろう。

 だが、経済が混乱したり、組織が危殆(きたい)に瀕(ひん)しているときに、「正義」などと、うそぶいていては組織の崩壊を食い止めたりはできないのである。

 危機のリーダーには、不屈の闘志と常人を超えたストレス耐性が必要であり、西川氏はそのような人物として当時の改革派の期待を担って、官僚伏魔殿に乗り込んできたのではなかったのか。

 今回の騒動で不可解だったのは、西川氏の更迭を言う誰もがその後任に触れないことである。政争の具と化した社長のいすである。経済的に恵まれたポストでもなく、政治状況で理不尽に追われる可能性も高い。やってもよいという一流財界人などいるはずもない。二流の人材を用いれば、都知事が思い付きで始めた悲惨な都営銀行の愚を繰り返すこととなる。

 やりたい郵政官僚には事欠かないし、やらせたい応援団も数多くいるだろうが、これを認めれば、その政権と党首は直ちに国民の信を失うだろう。乱気流に入った政治状況から、不幸にして突如更迭という事態になるかもしれないが、西川氏は断固抵抗することで晩節を全うするだろう。人の評価はしょせん「棺を覆いて事定まる」ものである。(十菊)

    ◇

 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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