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ストレステストの深慮遠謀

2009年7月10日0時10分

 米国政府が5月に公表したストレステストを契機に、米国の金融不安は沈静化したかに見える。大手19行の資本不足は746億ドルにとどまったし、資本不足と判定された銀行も自力で資本調達を実施している。景気停滞が続けば、資本がさらに毀損(きそん)する懸念は残るが、ストレステストが、米国金融市場に大きな安心感をもたらした意義は大きい。

 しかし、今回のテストの真の狙いは、実は別のところにあったのではないか。それは、米国政府が、自国金融業の競争力を取り戻すために、彼らに有利な基準や環境をいち早く整えようとしたことだ。

 ストレステストが明らかにしたのは、米銀は中核的自己資本の量は十分だが、資本の質が不十分、具体的には、普通株の比率が4%を下回っているということであった。

 金融危機の深刻化に伴い、内外の市場では、従来の自己資本比率より厳格な普通株比率が重視される傾向が強まっていたが、米国政府は、ストレステストや公的資金投入プログラムなどによって、米銀がその比率を早期に引き上げるインセンティブと環境を作り出したのである。

 一方で、欧州や日本の銀行は、十分な普通株比率を保持しているかどうか、疑念が残る。欧州ではストレステストを実施するかどうかで議論が続いており、大手邦銀も自己資本増強に手をつけ始めたばかりだ。

 このままでは、危機後の金融市場で、米銀は再び世界をリードするポジションを得ることになる。そこには、金融業こそが米国を牽引(けんいん)する産業であるという強い意思が見て取れる。銀行自己資本を巡る競争において、欧州や日本は米国に再び敗れることになるのだろうか。(山人)

    ◇

 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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